はじめに
「新しい切り口の産婦人科学講座 分娩編」は、このブログがスタートしてから最も古い記事の一つで、これまで多くの人に読んでいただくことができました。
今回は、「新しい切り口の産婦人科学 本講座」が開講したため、これまでのイラストを全面リニューアルすることとしました。まだ全てリニューアルできていませんが、順次リニューアルしていきます。
是非、お楽しみください。
この分娩講座は、50年以上もの間、述べ2万人以上のお産に関わられた「お産の神様」とも呼ばれる先生(70歳台後半の現役産婦人科医)からご指導いただいたことを書かせていただきました。
さて国家試験の勉強などをしていてなかなかイメージがつかないところが分娩でしょう。実際のお産でも100人のお産をとってようやく当直見習いができるというくらい、分娩はとても難しいものです。
でも安心してください。この講座を最後まで読み切れば分娩の基礎はしっかりと理解することができます。
正常分娩を勉強する前に
分娩を理解する上で避けて通れないのが回旋です。
回旋とは分娩時の胎児の姿勢の変化のことです。
回旋を理解するのに最も大切なことは、実は産道と胎児の頭の形です。
いろいろな回旋の解説がありますが、どうして回旋という複雑な動きをしないといけないかというと、その秘密は産道と児頭の頭の形にあります。
では、まず産道の形について見てみることにしましょう。
ヒトの産道は複雑だ!
ヒトの産道は4足歩行の動物と比較して図のように非常に複雑な形をしています。
例えば、4足歩行の代表格であるイヌは図のようにほぼ直線上の産道をしています。
ちなみに戌(イヌ)の日に安産を祈願することがありますが、それはイヌの産道を見て貰えばわかる様に極めて安産だからです。
それに対してヒトの産道は極めて複雑な形をしています。
二足歩行のヒトが、イヌのように直線的な産道であった場合、安産である反面、重力で早産になってしまいます。
そこで産道を屈曲させることで重力による早産を防ぎました。
つまり、ヒトは二足歩行の獲得と引き換えに難産になってしまったのです。
さらに二足歩行の影響で、背骨によって子宮が後ろから圧迫されるようになりました。
その影響で子宮の形が変形してしまい、胎児は左か右のどちらか一方を必ず向いています。
ちなみに児背(胎児の背中)が左向きであれば第一胎向、右向きであれば第二胎向といいます。
このことは次に出てくる第2回旋を理解するのにとても重要です。
しっかりとおぼえておいてください。
つづいて胎児の頭の形を見てみることにしましょう。
胎児の頭の形は実は図の様に曲線を描いています。
これはちょうど児頭の進行方向に一致します。
児頭は小尖門を先進部にして曲線を描きながら産道を進んでいきます。
ここでもう一度産道の形を見てみてみましょう。
そうです。
産道も屈曲して曲線を描いています。
つまり、児頭の進行方向と産道の形が一致しないと胎児は出てくることができないのです。
しかも、胎児の頭蓋骨は骨融合していないため、産道の形に合わせて頭蓋骨の形を変形することができるため、よりスムーズに児頭が産道を通ることができます。
これが回旋の正体です。
回旋とは赤ちゃんが複雑な形の産道から出てくるために必要な姿勢の変化のことなのです。
そして、分娩の進行過程に合わせて4つの動きに分けて考えました。
これが第1回旋から第4回旋です。
それでは第一回旋から順番に見ていきましょう。
第1回旋
陣痛が始まると子宮が収縮して胎児の頭は子宮口にぶつかり、まるで頭を上から押さえつけられるような形になります。
実際に自分の頭も上から手で押さえつけられると自然と頷くような形となりますよね。
そうです。
第1回旋とは、子宮が収縮して児頭が子宮の出口に押さえつけられることで起こる自然な首の動きなのです。
そして、その結果として、産道の最も狭いところを、最も頭で一番小さい直径(最小径)で通過できるようになります。
さらに骨融合していない後頭部が先進するようになるので、産道の形に合わせて大きな頭蓋骨を変化することができ、よりスムーズに産道を通過できます。
ちなみに4足歩行の類人猿であるチンパンジーやゴリラの胎児の頭蓋骨はヒトと違って骨融合しているため、産道の形に合わせて頭蓋骨の形を変化させることはできません。
この過程で骨盤の奥にはまってくるので「固定」といいます
第2回旋
先ほど、母の背骨があるため必ず児背は右か左のどちらか一方に傾いていることを説明しました。
しかし、この状態では、児頭の先進方向が産道とは異なる方向を向いているため、産道を通過することができません。
そのため、児頭の進む方向と産道の向きが一致するように、陣痛を通して児頭は90度回転します。
これが第2回旋です。
この児頭はネジのように回転しながら徐々に骨盤の深いところまで進んでくるので、この過程を「嵌入」といいます。
ちなみに、もし胎児がどちらか一方を向いていなければ自然と第1回旋、第3回旋をするだけで胎児はでてきます。
上でも説明しましたが、2足歩行により母の背骨が子宮に影響するようになったため、胎児は真正面を向くことがなくなりました。
つまり、2足歩行をするようになったからこそ出現した胎児の姿勢の変化こそが第2回旋とみることができます。
第3回旋
さらに分娩が進んでくると、ようやく児頭が娩出されてきます。
第3回旋は児頭が反屈しながら出てくることです。
実はこの過程はいたって当たり前のことです。
産道が曲線を描いているので、その向きに沿って自然と首がのけぞる様な動きをします。
現在、ほとんどのお産は分娩台で背中を下に向けているのでイメージがつきにくいかもしれません。
よく考えてみると、ほぼ全ての哺乳類は4つん這いで出産します。
4つん這いで出産したら児頭は自然と反屈しながらでてきますよね。
これが第3回旋です。
ちなみに、分娩台での姿勢は4つん這いの姿勢をちょうど180度回転させたような姿勢です。
第4回旋
最後に第4回旋です。
頭が出てきた後に問題になるのが肩です。
産道の出口(膣口)は縦に長いです。
それに対して、児頭が出てきた段階では胎児の肩は横に長くなっています。
肩をスムーズに娩出するには縦長の産道の出口の形に合わせて、図の様に体を90度回転させる必要があります。
これを第4回旋といいます。
いかがでしたでしょうか?
いろいろな回旋の解説がありますが、実はこんな解説もあるのです。
産道や胎児の頭の形を考えると、回旋はとても自然な動きであることが理解できたのではないでしょうか?
ヒトは2足歩行を獲得したが故に産道の形を変化させることで重力による早産を防ぎました。
しかし、逆に胎児が4回もの回旋という複雑な姿勢の変化をする必要が生じました。
このように考えると正常な分娩でもこれだけ複雑な動きをしているので、少しでも変わった動きがあるとより難産になることが予想されますよね。
次回は異常分娩について取り扱うことにします。