帝王切開の脊椎麻酔は右側臥位でします。
今回は帝王切開での麻酔についてまとめます。
はじめて帝王切開を見る研修医の先生や助産師さん向けの内容です。
帝王切開の麻酔
多くの施設では帝王切開での麻酔の方法として脊椎麻酔(俗にいう下半身麻酔)を使用しているのではないかと思います。
そこで使用される薬剤として代表的なのが高比重マーカーイン®︎(ブピバカイン)です。
その名の通り、高比重、つまり水よりも重い薬剤なので脊柱管内に薬剤が入ると重力に従って拡散していきます。
仰臥位低血圧症候群
ところで仰臥位低血圧症候群については聞いたことがありますよね。
これは大きくなった子宮が下大静脈を圧迫してしまうため心臓に戻って来る血液量が減少し、血圧が低下してしまう現象です。
血圧が下がるということは胎児への血流も低下してしまうため望ましい状況ではありません。
そのため子宮を左側に用手的に移動させたり(子宮の左方移動といいます)、左側臥位にしたりすることで静脈の圧迫を解除することで予防していきます。
さて右側臥位で麻酔をすると、高比重であるため右半身に麻酔が効いてきます。
その後、左側にも麻酔を効かせないといけません。
そのため、仰臥位にしていきます。
しかし仰臥位にしてしまうと、仰臥位低血圧症候群が起こってしまうため、やや左側に傾ける左半側臥位という状態にします。
そのことで子宮が左側に移動し下大静脈の圧迫が解除され仰臥位低血圧症候群を予防することができます。
それと同時に左側にも均等に麻酔が効きます。
もし左側臥位で脊椎麻酔をしてしまうと、右側に麻酔を効かせるために右半側臥位にしてしまうと下大静脈をさらに圧迫してしまい仰臥位低血圧症候群のリスクとなってしまいます。
麻酔はどこまで効かせるの?
子宮頸部の神経支配はS1-2
子宮体部の神経支配はTh10-L1
卵巣や卵管といった子宮付属器の神経支配はTh10-11
という具合に決まってきます。
しかし臍高(Th10)くらいまで効かせても濃度勾配があるため、しっかりと効かせるためにはTh5(乳頭)くらいまで効かせる必要があります。
麻酔が効き過ぎたら
麻酔が下半身だけでなく上半身まで効いてきてしまうことがあります。
効きすぎると血圧が低下してきますが、体は心拍数を増加させなんとか血圧を保とうとします。
しかし、さらに麻酔が効いてしまうと、いよいよ血圧が低下してきます。
そこで使用されるのが、昇圧薬です。よく使用されるのが、エフェドリンとネオシネジンです。
さてこの2つの薬剤は血圧を上げる薬剤ですが、作用機序が全く異なります。
比較的安全に使用できるのがエフェドリンです。
それに対してネオシネジンは効果は高いですが危険な薬剤です。
交感神経のα作用とβ作用
交感神経が刺激されるとノルアドレナリンが放出されます。
放出されたノルアドレナリンは実はα受容体とβ受容体の2種類の受容体に作用します。
α受容体に結合すると血管を収縮させる作用があります。
それに対してβ受容体に結合するとは血管を拡張させます。
またβ受容体は心臓の収縮力を高める作用もあります。
このように同じ交感神経でもα受容体に作用すると血管を収縮させ、β受容体に作用すると血管を拡張させます。
どうしてこのように作用が矛盾する2種類の受容体があるのでしょうか。
血圧を規定する因子
血圧は心臓の収縮力と抹消の血管抵抗で規定されます。
血圧=心収縮力×抹消血管抵抗
つまりα受容体に作用すると抹消の血管が収縮して抹消の血管抵抗は上昇することで血圧が上昇します。
さらに血管が収縮することで抹消に行くはずだった血液は心臓や肺などの主要な臓器に戻ってきます。そのため心臓などの主要な臓器ではβ受容体が作用し血管を拡張させることで血流を増加させます。
それによって心臓の収縮力が上昇することで、さらに血圧を上昇します。
同じノルアドレナリンですが、血管では主にα受容体が発現しているためα作用により血管が収縮します。
それに対して、心臓ではβ受容体が主に発現しているため、心臓の血管は拡張し、心臓の血流を上昇させ、心臓の収縮力をあげてくれます。
このように同じノルアドレナリンで異なった作用があるのはそのためです。
エフェドリン
エフェドリンはα刺激作用とβ刺激作用の両方の交感神経の刺激作用があります。
これはエフェドリン自体がノルアドレナリンのようにαやβ受容体を直接作用するわけではなく、交感神経からノルアドレナリンを放出させる作用がある薬剤です。
交感神経に頑張ってもらう薬剤なので限界があり、比較的安全と言われるのはそのためです。
ネオシネジン
ネオシネジンは純粋なα刺激作用のある薬剤です。
ノルアドレナリンと同様にα受容体に直接作用して効果を発現します。
ノルアドレナリンと違うのは、β刺激作用がないことです。
いずれにせよα受容体を直接刺激してしまうため、投与すればするほど作用を発揮してしまうため、危険な薬剤なのです。
ところでこんな疑問はないですか?
血管を収縮して血圧を上げるのであれば、子宮の血流が低下して、胎児に影響しそうな感じがします。実際には胎児に影響があるまでは血流は低下はしないです。
比較的よく昇圧剤として使用されるのはそのためです。
今回は帝王切開の麻酔と使用する薬剤について解説しました。