医学生のための婦人科癌手術の基本

  • 2020年7月1日
  • 2020年7月4日
  • 婦人科
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婦人科癌の治療は子宮全摘術であったり広汎子宮全摘術であったりと様々な手術が存在します。

広汎と準広汎の違いやリンパ節郭清の範囲などわからないことも多いと思います。

今回はそんな疑問に答えていきます。

 

2つの浸潤様式

婦人科癌の手術を考える場合、癌の浸潤様式を考える必要があります。

癌の進展様式は直接癌が増大して浸潤していく場合血管やリンパ管といった転移・脈管浸潤の2パターンがあります。

手術を考えるときはこの2つの浸潤様式を考える必要があります。

婦人科腫瘍では子宮と子宮付属器(卵管+卵巣)を摘出することは浸潤する原発巣を摘出することとなり、リンパ節郭清は転移している腫瘍を摘出していることとなります。

原発巣の摘出方法

まずは子宮の摘出様式についての各論です。

子宮を摘出する場合の術式は主に3つあります。

単純子宮全摘術、

準広汎(拡大)子宮全摘術、

広汎子宮全摘術

の3つです。

単純子宮全摘術

単純子宮全摘術は子宮のみを摘出します。

子宮筋層ギリギリで摘出するため、摘出範囲は狭く子宮全摘術の中では体に最も負担のない方法です。

そのため子宮筋腫などの良性腫瘍の手術では単純子宮全摘術が選択されます。

ただし、ギリギリで子宮を摘出するため、場合によっては子宮筋層をえぐり取るようになってしまうこともあります。

 

癌の手術をする場合は癌を取り残してはいけないので子宮本体から十分な余白をもって切除していく必要があります。

その方法こそが、準広汎または広汎子宮全摘術です。

準広汎子宮全摘術

準広汎子宮全摘術は主に子宮体癌で選択されます。

子宮とその周りの組織を摘出する方法です。

つまり子宮本体を傷つけずに摘出します。

 

広汎子宮全摘術

広汎子宮全摘術は子宮を基靭帯と膣壁を含めて十分に切除する方法です。

子宮頸癌は膣壁と基靭帯に沿って浸潤していきます。

そのため膣壁と基靭帯は腫瘍と十分な余白を持って子宮を切除する方法です。

 

それでは疾患別の治療方法です。

子宮体癌

子宮体癌の手術では主に準広汎といわれる手術が主流です。

単純子宮全摘術では癌がある子宮を削ってしまう恐れがあるため子宮と十分な余白をもって摘出する術式である準広汎子宮全摘術が選択されます。

専門的にはなりますが子宮との十分な余白を示す目印が子宮動脈と尿管が交差する尿管トンネルです。

ただし子宮体癌でも子宮頸部の内膜に発生した子宮体癌の場合、基靭帯にそって浸潤していく可能性もあり、広汎子宮全摘術が選択されることがあります。

子宮頸癌

子宮頸癌は主に膣壁方向と基靭帯方向へ浸潤していきます。

そのため子宮だけでなく膣壁と基靭帯を含めて切除する必要があります。

これを広汎子宮全摘術と言います。

卵巣癌

卵巣癌では子宮方向にも浸潤していき対側の卵巣へと転移していきます。

しかし、あくまで原発巣は卵巣のため単純子宮全摘術だけでも十分な余白をもって腫瘍を摘出していることになります。

また卵巣癌で最も重要なことは腫瘍を可能な限り減量するということです。

なぜならば卵巣癌は抗がん剤が効きやすい腫瘍だからです。

一般的には残存腫瘍が1cm以下にすることが目標とされ、予後にも相関します。

大網切除について

子宮体癌では癌が卵管を通じて腹腔内に飛び散ることがあります。

卵巣癌では卵巣の皮膜を破ったら腹腔内に飛び散ってしまいます。

大網は小腸などの消化管を覆うことで消化管を守っています。

そのため腹腔内にがん細胞が飛び散ったときはまずは大網に転移していきます。

そのため卵巣癌や子宮体癌の一部では大網を切除していきます。

リンパ節郭清

婦人科臓器のリンパ循環

子宮、卵巣、卵管、膣といったいわゆる婦人科臓器のリンパ循環は円靭帯や基靭帯のリンパ管へと集束し骨盤内のリンパ節を循環します。

そのため子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌はすべて骨盤リンパ節郭清を行います。

 

子宮のリンパ流

子宮のリンパ流は主に2つです。

円靭帯や基靭帯を経て骨盤のリンパ節に向かう骨盤リンパ節系

骨盤漏斗靭帯、つまり卵巣動静脈から大血管へ向かう傍大動脈リンパ節系です。

子宮筋層1/2までと子宮頸部は主に骨盤へ、筋層1/2を超えてくるとリンパの流れは主に卵巣動静脈にそったリンパ管方向になっていきます。

そのため卵巣癌はもちろん深い浸潤がある子宮体癌は骨盤漏斗靭帯を経て傍大動脈系へとリンパ流があるため、骨盤リンパ節郭清だけではなく、傍大動脈リンパ節郭清を行います。

センチネルリンパ節生検

婦人科癌は基本的に所属する全てのリンパ節を摘出することが標準治療となっています。現在、この治療方針は過剰の治療ではないかと議論になっています。乳がんや悪性黒色腫などと同様にセンチネルリンパ節生検を行い、陽性であったときに所属するリンパ節郭清をするべきではないかという議論がなされており、学会でも話題になっています。

 

 

まとめ

子宮体癌:準広汎子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤リンパ節郭清

筋層浸潤が深ければ、傍大動脈リンパ節郭清も追加。

子宮頸癌:広汎子宮全摘術+(両側付属器摘出術)+骨盤内リンパ節郭清術

卵巣癌:単純子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤リンパ節郭清+傍大動脈リンパ節郭清+大網切除術

 

これらの治療方針はあくまで典型例です。

実際は組織型などでも治療方針は変わってきます。

以上が婦人科腫瘍の手術選択の基本的知識です。次回は妊孕性温存手術について説明します。

 

卵巣癌など婦人科腫瘍は化学療法が奏功しやすいため腫瘍の量を減らす腫瘍減量術(Debulking surgery)が選択されます。手術前のCTなどの画像検索で明らかなリンパ節転移がなくてもリンパ節郭清を行います。これは治療というよりは予後を規定するステージングの目的の色合いが強くなっています。そのため、婦人科腫瘍でもリンパ節郭清を本当にしたほうがいいのかどうかについて様々な角度から議論がされています。

 

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