卵巣癌の治療の基本

婦人科癌の治療で理解しにくいのがその治療の複雑さではないかと思います。

特に卵巣癌は術前化学療法があったり、組織型で治療が異なったりと混乱しやすいです。

今回は卵巣癌の治療の基本を見ていきたいと思います。

ちなみに今回は主に上皮性卵巣癌の治療方法について解説していきます。

卵巣癌の治療の基本

卵巣癌の治療の考え方の基本は次の3つです。

①抗がん剤が効きやすい

②腫瘍をできる限り減量することが予後の改善につながる

③組織型により再発リスクが異なる

 

卵巣癌は抗がん剤がとても効きやすい癌です。

そのためIII期以上の進行癌で発見され、手術は困難と判断されても、抗がん剤で腫瘍が減量できた場合は手術で腫瘍を取り切ることができる可能性があります。

 

これは卵巣癌に特有でそのほかの癌種では見られない特徴です。

この進行癌に対して手術を目指した化学療法を行うことを、

術前化学療法(NAC: Neo Adjuvant Chemotherapy)と言います。

主にパクリタキセルとカルボプラチンを組み合わせたTC療法が用いられます。

 

その後、化学療法によって腫瘍を減量したのちに根治を目指した手術を行うことを、

IDS(Interval Debulking Surgery)といいます。

それに対してI期からII期と初期の癌で化学療法をしないで根治を目指した手術を行うことをPDS(Primary Debulking Surgery)といいます。

 

卵巣癌は腫瘍を減量することが治療となります。

そのため再発しても腫瘍を落ち葉ひろいのように摘出していくことが予後の改善につながることがあります。

この再発卵巣癌に対する手術は、二次腫瘍減量術(Secondary Debulking Srugery)と呼ばれます。

ちなみにここでいう根治というのは肉眼的に癌をすべて取り除くという意味です。

とりきれなくても残存腫瘍が1cm未満に抑えれば予後の改善が見込めるとされています。

肉眼的に腫瘍が取りきれた場合を、Complete surgery

1cm未満に腫瘍を減量できた場合を、Optimal surgery

腫瘍減量はできたものの1cm以上腫瘍が残存してしまった場合を、Suboptimal surgeryと言います。

 

組織型と治療法

卵巣癌は組織型によって悪性度が異なってきます。

上皮性卵巣癌は、漿液性腺癌、粘液性腺癌、類内膜腺癌、明細胞癌の4つに分類されます。

そして、これらの癌は腺管構造を形成しないような充実成分(悪性度の高い成分)がどれだけあるかでgrade分類されます。

つまり、もともとの組織と類似した構造がどれだけ残っているのかで悪性度を分類します。

 

充実成分が5%以下であればgrade1、

5−50%未満であればgrade2、

50%以上であればgrade3と分類します。

 

しかし、明細胞癌ではどんな組織型であれ抗癌剤が効きにくく予後が悪いと言われています。

そのためあえてgrade分類はしません。

 

一般的に低異型度(Low grade)の癌種の場合は、予後は比較的いいと言われています。

I期の場合は、手術を完遂し、かつ低異型度(Low grade)など悪性度が低い場合は、癌は取り切れたと考え経過観察となります。

ただし、悪性度が高い場合、具体的には、明細胞癌やgrade2/3の場合は再発率や転移率が高いことが知られています。

つまりI期でも微小な浸潤や転移がすでに起こっていると考え、術後化学療法を追加します。

 

ただしI期でもIC期の場合は癌は被膜破綻、つまり癌が腹腔内に散らばってしまっているため、術後化学療法を追加します。

 

II期以上では基本的には術後化学療法を追加します。

卵巣癌の治療の具体例

卵巣癌はある程度進行しなければ症状が出てこないため、silent killerとも呼ばれたりします。

卵巣癌が見つかるのは主に2つです。

①腹部膨満感で来院した場合

②婦人科検診でたまたま卵巣腫瘍が見つかった場合

 

①腹部膨満感で受診した場合はほとんどの場合は腹水が貯留してしまうIII期、IV期の場合です。

腹水が大量に貯留している場合は、腹水細胞診などで診断がつく場合もありますが、診断がつかないこともほとんどです

そのため、診断目的に試験開腹が行われます。

これは開腹して腫瘍の一部や播種病変を摘出して病理学的に診断することです。

病理診断できたら、術前化学療法を行い、可能であれば手術(IDS)を目指します。

もちろん、腹水が貯留していても腫瘍を取りきれる場合はリンパ節郭清を含めた手術(PDS)を目指しますが困難なことがほとんどです。

ちなみに明細胞癌など悪性度の高い癌は抗がん剤の効果が乏しいため、治療に難渋することが多いです。

大量の腹水を遠心分離して得られる細胞塊から、免疫染色などをして診断できることがあります。

 

②婦人科検診で偶然見つかった場合は、MRIや腫瘍マーカーなどから総合的に診断していきます。

この場合はI期やII期の場合が多いです。

しかし、これらの検査からは卵巣癌とは診断できません。

最終的な癌の診断は組織診です。

つまり直接組織を採取して顕微鏡で検査しなければいけません。

しかも組織型によって手術の方法が変わってきます。

そのため、手術を行う場合は、術中迅速組織診断を行います。

これは手術中に行う簡易的な顕微鏡の検査です。

あくまで簡易的な診断であるため、良性か境界悪性か悪性までしかわかりません。

組織によっては組織型まで大まかに分かることもあります。

もし悪性と診断された場合は、根治術、つまり子宮全摘術、両側付属期摘出術、大網切除術、骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清を行います。

これはPDSと言われます。

境界悪性の場合は、子宮全摘術、両側付属期摘出術に加え大網切除術まで行います。

 

以上が卵巣癌の大まかに治療です。

近年、分子標的薬の登場によって上皮性卵巣癌の治療方法が大きく変化してきています。また分子標的薬を用いた治療方法についてまとめて見たいと思います。

 

 

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