今回は少し胎児が成長している環境をのぞいてみましょう。
ここが分かると胎児機能不全を評価する胎児心拍数モニタリングやBPSが見えてくると思います。
早速、見ていきましょう!
胎児はエベレストの山頂と同じ標高にいる?
胎児は羊水という水の中にいます。
では水の中でどのように呼吸しているのでしょうか?
ご存知のように胎児は呼吸する必要がありません。
なぜならお母さんの血液から胎盤を通して酸素をもらうからです。
しかし、これには問題があります。
胎児がもらう酸素は、母体の血管や胎盤を通ってようやく届くので、胎児に届くころには他の組織に消費されてしまい酸素の量はとても少なくなってしまうのです。
具体的には胎児の血中酸素分圧(臍帯静脈)は20-30mmHgと言われています(健常な人の血中酸素分圧は60mmHg以上です)。
これはちょうどエベレストの山頂に登頂する人と同じ血中酸素分圧に相当します。
つまり、胎児はエベレストの山頂と同じ酸素濃度の中で成長しているのです。
*血中に溶ける酸素の量は分圧という言葉で表現し、単位はmmHgです。
最近はパルスオキシメーターで血中酸素濃度を%で表示することもあります。
血中酸素濃度90%はおおよそ血中酸素分圧60mmHg程度と覚えておくといいでしょう。
低い酸素濃度で生きる仕組み
エベレストの山頂は酸素濃度が低いため、普通のヒトがエベレスト山頂に行くととても息苦しく感じます。
しかし、胎児はそんな低い酸素濃度の中でもしっかりと成長して生きていくことができます。
どうしてでしょうか?
その理由こそが、胎児型ヘモグロビン(HbF)の存在です。
ヘモグロビンとは
実は酸素はなかなか血液に溶けないので、ヘモグロビンというタンパク質に酸素をくっつけて運搬します。
酸素濃度が高いところ(肺)では酸素と結合して、酸素濃度が低いところ(末梢組織)では酸素を放出する性質があります。
私たちが持っているようなヘモグロビンは成人型ヘモグロビン(HbA)と呼ばれますが、胎児がいる子宮内の環境では酸素濃度が低すぎるため酸素と結合することができません。
それに対して胎児型ヘモグロビンは酸素親和性が高く、低い酸素濃度でもたくさんの酸素と結合して酸素を運搬することができます。
さらに胎児のヘモグロビン値(血液の濃さ)も17-20mg/dLと成人よりも高いため、少ない酸素濃度でも効率的に胎児に酸素を運搬することができます。
つまり酸素とより多く結合できる胎児性ヘモグロビンがより濃い濃度で存在するからこそ、胎児は低い酸素濃度でも効率よく酸素を運搬することができるのです。
赤ちゃんはどうして赤ちゃんと呼ばれるの?
ヘモグロビンは酸素と結合すると綺麗な赤色になります。
成人では酸素濃度(分圧)が高い動脈血できれいな赤色を呈しますが、酸素濃度の低い静脈血ではヘモグロビンは酸素と結合しないので、暗赤色を呈します。
それに対して生まれたばかりの赤ちゃんはエベレスト山頂の標高の酸素濃度でも酸素と結合することができる胎児型ヘモグロビンを持っています。
酸素濃度が低い子宮から酸素濃度が高い子宮外にでて呼吸を始めると、一気に血中の酸素濃度が上昇します。
すると胎児性ヘモグロビンがたくさんの酸素と結合します。
成人であれば酸素と結合しないような静脈血の酸素濃度でも酸素と結合するため、静脈血でも赤いままです。
そのため分娩直後の新生児は真っ赤になります。
赤ちゃんが赤ちゃんと呼ばれる所以です。
ちなみに胎児性ヘモグロビンは分娩後から急激に減少して成人型ヘモグロビンに置き換わっていきます。
一見、酸素をたくさん運搬できる胎児型ヘモグロビンは魅力的ですが、酸素はありすぎると逆に身体を酸化してしまう危険な存在になってしまいます。
そのため分娩後は通常の酸素濃度に適した成人型ヘモグロビンに入れ替わるのです。
いかかでしたか?
胎児ってとても過酷な環境で生きていることが分かりました。
そう考えると陣痛ってお母さんにとっても胎児にとっても、本当に過酷なイベントですよね。
以上が胎児がお腹の中で生きている環境についてでした。