さてこんなことはありませんか?
陣痛が順調にきていた人が、医師が内診しにきたら陣痛が遠ざかってしまった。
おそらくこんな経験はあるのではないかと思います。
今回はその謎に迫りたいと思います。
助産師さんの分娩時に果たす役割は本当に大切です。
新米助産師さんはおそらく一つ一つの手技を覚えることでいっぱいいっぱいかと思います。
もちろん手技はとても大切ですが、それ以上に大切なことがあります。
それはいかにしてお母さんをリラックスさせるかです。
なぜなら分娩はお母さんがリラックスしているときに最も進むからです。
子宮がそもそも主に副交感神経に支配されています。
副交感神経はリラックス神経でしたね。
つまり緊張させることはリラックスとは逆に分娩をしにくくさせてしまいます。
特に初産婦さんでは初めての出産ということもあり、とてつもなく不安です。
しかも痛いです。
痛いと交感神経が活発となってしまいますね。
ですので助産師さんはずっと妊婦さんに寄り添い不安を解きながら、
お母さんをリラックスさせ、分娩に適した状態に作り上げていく必要があります。
どうして助産師さんが24時間つきっきりで寄り添うかというとそのためです。
へんな陣痛促進薬なんかよりもよっぽど効果があります。
しかし、どうしても医学的に分娩進行が困難な場合があります。
その時は産婦人科医が医学の力をもって対応していきます。
さらに助産師さんは妊婦さんをリラックスさせるのと同時に適宜分娩の進行具合を評価し、適切にお産にもっていってくれます。
ベテランの助産師さんは本当にこれがうまいのです。
妊婦さんから一緒にいて安心すると言われるくらいだと、おそらく大変なお産でもなんとか最後までいくなと思います。
緊張を逆に利用する切迫早産治療
話はもどりますが、医師が来るとどうしても妊婦さんは緊張してしまいます。
特になかなか分娩が進行しない場合は本当に下からお産できるかなど不安はどんどん増していきます。
つまり交感神経がどんどん働いてしまいます。
この交感神経はα刺激作用とβ刺激作用という2つの作用があります。
α刺激作用は主に血管に働き血圧を上げたりします。
それに対してβ刺激作用は主に心臓に働き、心収縮力をあげたり、心拍数を上げたりします。
それと同時に平滑筋を弛緩させる作用があります。
つまり消化管の動きや子宮の収縮を弱めたりします。
極度に緊張しているとトイレにはなかなか行かないですよね。
これは進化の過程で天敵に遭遇したときに排泄などをしていて襲われないようにするためです。
さてこの子宮の収縮を弱める交感神経のβ刺激作用を利用したのが切迫早産の治療薬である塩酸リトドリンなのです。
ちなみにこの薬の効果がβ作用であるため心臓にも作用してしまいます。
使い始めに動悸などの副作用があるのはそのためです。
このように考えると、常に緊張状態にすると考えると、体には相当な負担がかかることが予想できるのではないでしょうか?
*現在、リトドリンの長期投与については議論が盛んなところで、数ヶ月も切迫早産でリトドリンを投与するのは日本くらいなものです。海外では短期間の投与にとどめることが一般的です。
今回は分娩と自律神経である交感神経と副交感神経の関係性についてみてきました。
産婦人科医が来ると妊婦さんが緊張して妊娠が遠ざかってしまうということは、
つまり産婦人科医は内因性の塩酸リトドリンなのかもしれませんね。