Rh式血液型不適合妊娠で妊娠28週前後と出産後の72時間以内の2回ヒト免疫グロブリン(D抗原に対する抗体)を投与します。
みなさん、どうしてか考えたことはありますか?
どうして27週なのでしょう?
どうして2回投与するのでしょう?
今回はこの謎について考えていきます。
実は胎児成分は微量ですが母体の血液中に混じってきます。
ところでNIPTという検査をご存知でしょうか?
これは母体血中に含まれる胎児のDNAを解析することで主にダウン症などといった染色体疾患を解析する方法です。
☞ちなみに原理的にはY染色体由来のDNAも分かるので性別も判定することもできますが、日本では行なっていません。
つまり胎児の成分は微量ですが母体血中にどうしても混じってしまいます。
もちろんD抗原も微量ですが母体血中に存在します。
ではどうして妊娠初期には感作(抗D抗体が産生されること)されないのでしょうか?
それはD抗原の母体血中濃度が低いからです。
実は、ある一定の量にならなければ感作はされません。
しかし胎児が成長するに従って抗原量は増えていきます。
そこで28週ごろに抗Dヒト免疫グロブリン(D抗原に対する抗体)を投与することで、
D抗原をコーティングします。
抗原の表面がコーティングされるということは抗原性がなくなることです。
そして免疫グロブリンでコーティングされた抗原は、
抗体を作るB細胞やT細胞などにその存在を気づかれることなくマクロファージなどに捕食されます。
つまり抗原量が減少します。
また分娩時は母体血に胎児血が混入してしまい、母体血中の抗原量が増加してしまいます。
ですので再度、抗Dヒト免疫グロブリンを投与しD抗原を抗体でコーティングして、抗原量を下げるのです。
追記
さてここでこんな疑問が湧いて来ませんか?
抗Dヒト免疫グロブリンも母体で産生される免疫グロブリンも同じIgG抗体と呼ばれる胎盤を通過することができる抗体です。
抗Dヒト免疫グロブリンも胎児赤血球を攻撃するのではないかと思いませんか?
実際に投与した抗ヒト免疫グロブリンも胎盤を通り抜けできます。
しかし次の点で、実際の母体で産生される抗体量よりも少ないことから問題となることはほとんどありません。
①筋注であること(血中濃度が低い)
筋注であることからすぐには血中濃度は高くならないため、胎盤に到達できる量は極めてわずかです。
②胎盤でのIgGの母児間での輸送には特殊な仕組みが必要で28週ではまだ未熟であること(胎児に到達しにくい)
IgGは分子がとても大きいため胎盤での輸送にはピノサイトーシスと呼ばれる仕組みを使って輸送します。
この仕組みは28週ではまだまだ未熟で、おおよそ30週くらいでようやく母体濃度の50%を輸送できるくらいです。
上記の点から、投与した抗Dヒト免疫グロブリンは主に母体で機能し、28週での投与は問題になることはないのです。