前回までは胎児心拍数モニタリングの基本的な読み方について説明しました。
前回までは、正常および異常分娩について説明してきました。 今回からは初学者にはなかなかイメージがしにくい胎児心拍モニタリングについて説明していきます。 注意 これはあくまで初めてCTGを学ぶ人向けです。 […]
今回はより実践的な判読方法について考えて見たいと思います。
大切なことは、
①基線と基線細変動を確認すること
です。
そして、モニター波形がなかなか取れない場合は、
②経腹超音波検査を行い実際に心拍数を目で見ること
が大切です。
実際の臨床現場では胎児心拍が低下したときなどは頭ではわかっていても、目でモニター波形を見るとかなり恐怖を感じます。
ここで一息ついて前後の波形を比較してみましょう。
前後のモニター波形で大切なことは、
基線と基線細変動
です。
基線が正常範囲内で基線細変動をしっかりと認めればまだ余裕はあります。
それさえなければかなり危険なモニター波形となります。
それでは実際に確認できる注意すべき波形について具体的に説明していきます。
ハーヴィングとダブリング
心拍数が180bpm以上になると機械が異常だと判断して、その半分の値を記録することがあります。
これをハーヴィング(Halving)といいます。
これとは逆に心拍数が90bpm未満となると、その倍の値が記録されることがあります。
これをダブリング(Doubling)といいます。
いずれも連続した線としては記録されません。
頻脈
頻脈となる原因は胎児に対するストレスです。
酸素低下以外にも母体の発熱や胎児の感染症などが挙げられます。
他にも切迫早産である塩酸リトドリンはβ刺激薬であり心拍数を早めます。
頻脈である場合、その原因検索はとても大切なことです。
胎児感染などよほどリスクがない限りは、
reassuring fetus statusの4条件のうち、3条件を満たしていれば、経過観察可能だと言われています。
①正常脈であること
②基線細変動がしっかりとあること
③一過性頻脈があること
④一過性徐脈がないこと
徐脈
胎児は生理的には成長するに従って徐々に心拍数は低下していきます。
予定日超過の場合には110bpm以下となることもしばしば認められます。
徐脈の場合もreassuring fetus statusの4条件のうち、3条件を満たしていれば、経過観察可能だと言われています。ただし、基線は100bpm以上の場合です。
①正常脈であること
②基線細変動がしっかりとあること
③一過性頻脈があること
④一過性徐脈がないこと
胎児の低酸素血症で徐脈となる場合は、低酸素血症が進行した末期症状です。
そのため、徐脈+基線細変動の低下・消失も認められます。
基線細変動
自律神経の駆け引きで、低下している場合は、低酸素状態により自律神経の機能が低下している場合があり、注意が必要とお話しました。
注意が必要なのは、硫酸マグネシウムの使用です。
硫酸マグネシウムは神経の活動を抑制するため、基線細変動が低下することがあります。薬剤を使用している場合は注意が必要です。
サイヌソイダルパターン
医学生のころは、死ぬ急いでるパターンと最も危険なモニター波形として記憶しました。
胎児貧血で見られやすいとされています。
しかし、実際には、この波形はそんなに多く見られません。
貧血といえば、パルボウイルス感染は有名ですが、頻度としては低いです。
つまり、一見、サイヌソイダルパターンを見たとしても貧血となるようなリスクを認めない場合は、本当のサイヌソイダルパターンでないことが多いということです。
そのため、一見、サイヌソイダルパターンを見たとしても、10分以上経過観察していると自然と元に戻ることが多いです。
注意しないといけないのは、胎盤早期剥離です。
腹痛の有無の確認や胎盤を経腹超音波検査で確認すること、腹部打撲の既往がないかなどを確認することなどが大切です。
少しマイナーですが、十二指腸閉鎖などにより消化酵素が逆流し臍帯が消化されぼろぼろになり潰瘍化してしまうことがあります。これは臍帯潰瘍とも呼ばれますが、このような場合も臍帯内の血管から出血し、貧血となることがあります。
ここからは一過性変動についての生理的なお話です。
一過性頻脈
これは臍帯が子宮収縮で圧迫された際に静脈が圧迫されて、静脈還流量低下したため、反射的に心拍数が増加したものと考えられています。
早発一過性徐脈
前回の講義で説明しました。
定義は、深さは30bpm未満で、子宮収縮と一致した心拍数の低下です。30bpmを超える場合は、変動一過性徐脈と考えます。
変動一過性徐脈
子宮収縮による臍帯圧迫が原因です。動脈と静脈を比較すると静脈の方が圧迫により潰されやすいですよね。まずは静脈から圧迫されます。すると一過性頻脈のように静脈還流量が低下し、反射的に頻脈となります。その後、子宮収縮が強まり、動脈まで圧迫されるようになると、動脈の圧迫は血圧の上昇に繋がるので、反射的に心拍数は低下します。
30秒ルール
遅発一過性徐脈との違いは、子宮収縮の最高点と心拍数の最下点までが30秒を超えるか超えないかです。これを30秒ルールといいます。
遅発一過性徐脈
もともと低酸素血症の胎児が、子宮収縮による胎盤血流の低下でさらに低酸素状態になることが原因です。
機序としては2つ。
①低酸素状態のストレスによりカテコラミンが放出され一時的に血圧が上昇して、それに伴って心拍数を低下させる反射が起こります。この時はまだカテコラミンに放出し反応できるくらいの余裕はあります。
②低酸素状態が進行し、心筋の機能が低下することで、心拍数が低下します。
注意しないといけないのは、変動一過性徐脈と遅発一過性徐脈が併発する場合です。
変動一過性徐脈から正常の心拍数への戻りが悪い場合などです。
子宮収縮に関係ない心拍数の低下
臍帯下垂や脱出などが隠れていることがあるため注意が必要です。
一過性徐脈?一過性頻脈?
よくこんなモニター波形をみたことはありませんか?
この場合、一過性頻脈なのか一過性徐脈なのか判定に迷うことがあるでしょう。
その場合は前後の波形を確認し、基線の位置や基線細変動の有無を確認しましょう。
胎盤早期剥離などが起こっていない限り、特に自覚症状がなければ、前の波形が正常であるのに、急に徐脈となることは理論上ありえません。
元気なのに急にこんなにがんがんに徐脈になることなんてないですよね?
もしこんなにたくさん一過性徐脈になるようであれば、基線細変動は減少しているなどなんらかの変化があるはずです。
以上、胎児心拍モニタリングの基礎についてお話しました。
今回の講座を基礎にして、今後の勉強の参考になればと思います。