ゼロから理解する不妊治療 Part1

今日からは生殖医療について見ていこうと思います。

医師国家試験というよりは産婦人科専門医試験で出題される分野であるため、

生殖医療にほとんど触れたことがない産婦人科専攻医の先生向けです。

 

ちなみに僕はかつて生殖医療の知識がほとんどありませんでした。

むしろ患者さんのほうが知っているくらいでした。

生殖医療は実際に診療に携わらないとなかなかイメージがつきにくい分野でもあります。

そこで、この講座では生殖医療に全く馴染みがなくても理解できるように、

僕がどのように理解していったかをひとつひとつ解説していきます。

 

まずは不妊の定義です。

不妊治療の定義

不妊とは子供を作ろうと夫婦生活を送っていても1年以上妊娠できないことをいいます。

☞実際は

1年ですよ。

この1年はかなり長いです。

実際には、半年くらいで相談にきたりすることが多いです。

また近年は晩婚化が進み、実際に子供を欲しいと思ったころには年齢が35歳以上であったりすることはよくあります。

そんなときの1年はとてつもない1年です。

そのため、初めから不妊治療クリニックに相談したりする夫婦も多いのが実情です。

 

不妊の原因

不妊の原因はまず男性側因子と女性側因子に分かれます。

今回は主に女性側因子に絞って説明します。

その前に妊娠までの大きな流れを見ていきましょう。

 

妊娠までの大きな流れは4つです。

①排卵

②射精

③卵子と精子の移動

④授精と着床

です。

不妊症の原因は、この4つのステップのどこかに異常がある場合です。

それでは具体的に見ていきましょう。

①の異常 排卵障害

卵巣内の卵子は成長するに従い周囲の細胞(顆粒膜細胞や莢膜細胞)と共に卵胞を形成します。

そして、その卵胞が十分に成長することでLH sergeが起こり排卵されます。

排卵がおこらない場合とは、卵胞の成長に異常があったりすることでホルモン異常が生じLH sergeが起こらないような場合です。

具体例として、PCOS、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常などが挙げられます。

検査は採血によるホルモン値の測定です。

PCOSや高プロラクチン血症では月経期にホルモン値を測定します。

具体的には、LH、FSHエストロゲン(E2)、プロラクチンです。

排卵障害の方は月経不順の方が多くその原因も多岐にわたります。

そこでLH、FSG、E2を調べることで、その原因がホルモン系の脳の視床下部、下垂体、または卵巣のどこにあるのかがわかります。

また高プロラクチン血症の原因として甲状腺機能異常があるので、TSH、T3、T4も測定します。

また排卵期にはLH sergeが起こっているかどうかを調べるため、LHを血液検査で調べたりもします。しかし今では簡易に尿検査でも調べることができるようになったため、尿検査を使用する施設も多いです。

②射精の異常

精子は十分な濃度と量で排卵の時期にタイミングよく膣内に射精されないといけません。

なぜタイミングが大切かというと子宮の出口の頸管粘液は排卵期以外は栄養満点の子宮内膜を細菌から守るため子宮の出口に栓をしてしまいままっているからです。

細菌もですが精子も頸管を越えることができません。

しかし、排卵期になると頸管粘液が精子が泳げるくらいトロトロになり栓がなくなります。

すると精子はトロトロの頸管粘液の中を泳いで子宮内に渡ることができます。

 

ところで精子の大きさは約60マイクロメートル、つまり0.06mmです。

子宮の平均的な大きさは7cmと考えると、自分の身長の1166倍の距離を卵管まで遡上しなければいけません。

人間の平均的な身長を160cmと仮定すると1866m、つまり1.9km走のかけっこをするのです。

ただし精子は受精までのぎりぎりのエネルギーしかもっていません。

そのため、変な動きをしてエネルギーを消費する精子であったり、卵子がない方へ向かう精子がいたりすると受精なんかできません。

つまり、精子が卵子と出会うにはそれなりの精子の量と直線的に卵子に向かうような精子が必要となります。

 

検査は精液検査を行います。射精された精子を顕微鏡で見る検査です。

 

③卵子と精子の移動の異常

排卵された卵子は卵管采とよばれる卵管の入り口にまるで手で捕まえられるように拾われます。

卵子自体では移動できないので、卵子は卵管の中を卵管の上皮の繊毛の動きで子宮方向へ運搬されます。

それに対して射精された精子はオタマジャクシのように自分の力で泳いで移動することができます。

さて卵子の移動の異常として、ピックアップ障害と卵管閉塞があります。

精子の移動の異常として、抗精子抗体の存在などが挙げられます。

◼︎ピックアップ障害

卵管采が卵子をキャッチすることをピックアップといいます。

これがうまくいかないことをピックアップ障害といいます。

しかし、現在の医療では外来でできるような検査で、このピックアップ障害を観察することはできません。

もしタイミングや人工授精といった方法が駄目であった場合に可能性を考えます。

◼︎卵管閉塞

卵管采にキャッチされた卵子は卵管を通って子宮内に運ばれます。

しかし、クラミジアや淋菌などによる骨盤内の炎症や先天的な原因によって卵管が閉塞している場合があります。

検査として子宮卵管造影を行います。

この検査は造影剤を子宮内から流して卵管から造影剤が流出しているかを調べることで卵管が閉塞していないかを調べます。

◼︎抗精子抗体の存在

精子は女性にとっては異物でもあります。

そのため中には精子を排除しようと抗体を持ってしまう人がいます。

この抗体は抗精子抗体といいます。

そのためせっかく遡上してきた精子も抗体-抗原反応によって死活してしまうことがあります。

血液検査で抗体の有無を調べたり、フーナー試験といって夫婦生活を持ってもらった後の頸管粘液を採取して精子の動きを顕微鏡で見る検査をしたりします。

もし精子が元気よく動いていれば大丈夫ですが、動いていなければ抗精子抗体が精子にくっついて攻撃されていると予想します。

 

④授精と着床の異常

授精の異常

精子と卵子が授精するのは実は子宮内ではなく実は卵管内(卵管膨大部)です。

そこまで精子と卵子が行き着けたとしても最後の難関があります。

それこそが授精です。

授精するためには精子が卵子の硬い殻を破って中に侵入する必要があります。

それができないことがあるのです。

着床の異常

卵子が種だとすると子宮内膜は土です。

その土が十分に耕されないと卵子は成長しません。

子宮内膜がなんらかの影響で十分に成長しない場合を子宮内膜異常といいます。

基本的に経膣超音波検査で子宮内膜の厚さを確認します。

ここで大切になってくるのが黄体の存在です。

黄体は着床後の受精卵から分泌されるhCGによって、胎盤ができるまではエストロゲンとプロゲステロンを分泌し続けることができるようになります。

しかし、黄体機能がもともと弱いとhCGで刺激されても十分なエストロゲンとプロゲステロンが分泌されないため子宮内膜を良い状態に維持することができずに妊娠が維持できないことがあります。

これを黄体機能不全といいます。

ちなみに検査としては、黄体期に血液検査をします。プロゲステロンの値を調べます。

 

以上が不妊の主な原因とその検査についてでした。

次回は治療についてお話ししていきます。

 

オススメの参考書

今回オススメするのが不妊治療バイブル2020です。

一般の方向けの本ですが、不妊治療に関するお金のことから専門的な治療まで浅いですが幅広く記載されています。

ちなみに私が大学病院の不妊治療グループに勤務していたときにオススメされた本の一つです。

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