こんな解説が欲しかった!胎児心臓超音波検査

  • 2021年4月10日
  • 2022年3月2日
  • 産科
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はじめに

この講座の対象者は、胎児心臓超音波検査を苦手に感じる1年目から2年目の産婦人科専攻医の人を対象としています。

苦手意識の強かった胎児心臓超音波検査に慣れ親しんでもらい、今まで難しいと感じていた胎児超音波検査の成書が読みやすくなるのではないかと思います。

しっかりとついて来てください。

 

 

胎児心臓超音波検査は難しい

胎児超音波検査をするようになって、最も難しいと感じる場面の一つが胎児心臓超音波検査ではないでしょうか?

胎児心臓超音波検査は、断面をイメージすること自体が難しいため挫折する人も多いところです。

今回はこのイメージすることが難しい胎児心臓超音波検査について見ていくことにします。

 

胎児心臓超音波検査が難しい理由

胎児の心臓超音波検査はとても難しいです。

実際に胎児の心臓の専門医でも胎児超音波検査のスクリーニングにはかなりの時間がかかります。

それくらい胎児の心臓を検査することは難しくて当然のことなのです。

 

それではどうして胎児の心臓エコーは難しいのでしょうか?

その最大の理由は心臓の形が複雑でイメージすることが難しいからです。

ではどうしてイメージすることが難しいのでしょうか?

その一番の理由は心臓そのものというよりはむしろ心臓から出てくる血管の向きが複雑だからです。

 

 

心臓は心房・心室と血管の2つに分けて考えよう!

ではどのようにイメージしたらいいかというと

心臓を心臓本体(心房・心室と僧帽弁・三尖弁・卵円孔)血管(肺動脈・大動脈・動脈管)に分けてイメージしてください。

図はよく見られる心臓のイラストです。

よくみるとこの心臓のイラストは心房や心室といった心臓本体と心臓に出入りする血管でできていることがわかります。

心臓はちょうど図のように心房・心室の四腔断面像の上に血管が乗っているような状態だとイメージしてみてください。

 

胎児心臓超音波検査では、この心臓本体と血管を別々に考えるとわかりやすくなってきます。

胎児心臓超音波検査では様々な断面像がある

では心臓超音波検査ではどんな断面像があるかというと、

具体的には、

4 chamber view(四腔断面像)

3 vessel view(三血管断面像)

3 vessel tracheal view(三血管気管断面像)

LVOT(左室流出路)

RVOT(右室流出路)

が代表的です。

このように様々な断面像の名前が出てきますが、このことも心臓超音波検査を難しくしている要因でしょう。

 

いろいろな断面像がでてきてよく分からないと思ったら、次のように考えてください。

 

心臓の構造

ここで心臓の構造について見ていきましょう。

 

心臓本体は左右の心房と心室でできています。

そして、その心房と心室は三尖弁と僧帽弁で、左右の心房は卵円孔によってつながっています。

 

血管は肺動脈と大動脈でできています。

肺動脈は肺動脈弁によって右心室と、大動脈は大動脈弁によって左心室とつながっています。

そして肺動脈と大動脈は動脈管によって交通しています。

胎児心臓超音波検査で評価するもの

さて、そんな心臓の超音波検査で評価するのは次の2つです。

形態機能(血液の流れ)です。

まず、心臓の心房、心室、血管といった各パートの形態を評価します。

そして、それぞれのパーツをつなぐ弁、卵円孔、そして動脈管を介した血液の流れに異常がないかを確認します。

ちなみに、形態は通常のモードで確認します。

血液の流れはカラードップラーモードで確認します。

 

それでは具体的に各断層像について見ていきましょう。

 

心臓本体の形態や機能の評価

心臓を構成する左右の心房と心室の形態を評価するのが4 chamber viewです。

また心房と心室の間の僧帽弁や三尖弁、左右の心房をつなぐ卵円孔も同じ4 chamber viewに映り込むため、カラードップラーを追加することで、それぞれの血流も評価することができます。

 

心臓から出ていく血管の形態や機能の評価

血管の形はとても複雑です。

心臓本体は形態が単純なため4 chamber viewという一つの断面像で形態と機能を同時に評価することができます。

 

しかし、血管は大動脈や肺動脈の向きがバラバラで形態が複雑なため複数の断面が必要となります。

それが3 vessel view、3 vessel tracheal view、LVOT、RVOTです。

血管の形態を見るのが3 vessel viewです。

そして、

右心室と肺動脈をつなぐ肺動脈弁の血流を評価するのがRVOT、

左心室と大血管をつなぐ大動脈弁の血流を評価するのがLVOT、

肺動脈と大血管をつなぐ動脈管の血流を評価するのが3 vessel tracheal view

です。

LVOTとRVOTは本来、大動脈弁と肺動脈弁の機能を評価するための断面像ですが、その血流の向きが交差するかどうかを評価することで、血管の形態の評価をすることができます。

3 vessel viewがしっかりと見えること、LVOTとRVOTの血流が交差していることを確認できれば、ほとんどの心奇形は否定できると言われています。

 

胎児心臓エコーは心臓を構成する構造物とそれらの間の血流をひとつひとつ確認する作業と考えてください。

 

 

まとめ

心臓の血液の流れ

右心房→三尖弁→右心室→肺動脈弁→肺動脈→動脈管→大血管

右心房→卵円孔→左心房→僧帽弁→左心室→大動脈弁→大血管

 

四腔断面像 :心房・心室の形態・機能(僧帽弁・三尖弁)評価

LVOT RVOT:肺動脈弁・大動脈弁の評価

3 vessel view:心臓から出てくる血管の形態の評価

3 vessel tracheal view:動脈管の血流の評価

実際の評価方法

実際の胎児心臓超音波検査の方法は人それぞれです。

胎児の足側から順に四腔→LVOT→RVOT→3vessel view→3 vessel tracheal viewと確認していく人もいれば、まずブローブの平行移動で見られる4 chamber view→3vessel view→3 vessel tracheal viewを確認してから、四腔からプローブの角度を変えることで見られるRVOTとLVOTを確認する人もいます。

心房・心室の形態と心房と心室を繋ぐ弁や卵円孔の機能を見る四腔断面像

最も有名な四腔断面像は左右の心房と心室の形態を確認します。

さらにカラードップラーを追加することで、心房と心室を繋ぐ僧帽弁と三尖弁が逆流や狭窄がないかといった機能を確認します。

4 chamber viewでは形態をみることだけでも多くのことがわかります。

心室中隔欠損症をはじめ、Ebstein奇形や心内膜欠損症、右室低形成などとった心房や心室に異常がある病気がすぐにわかります。

もちろん診断をつけることは難しいですが、何らかの異常があることはわかります。

 

さらにカラードップラーを使うことで三尖弁、僧帽弁、卵円孔に逆流や狭窄がないかどうかを評価します。

ここからは心臓から出る血管の評価となります。

4 chamber viewと異なり、大動脈と肺動脈の形態が複雑なため1つの断面では評価できないため多くの断面が必要となります。

 

大動脈弁と肺動脈弁の血流を調べるRVOTとLVOT

左右の心室から肺動脈や大動脈をつなぐのが肺動脈弁と大動脈弁です。

これを評価する断面像が左室流出路LVOTと右室流出路RVOTです。

この断面像で肺動脈弁や大動脈弁に逆流や狭窄の有無を検索します。

またこの2つの断面像での血液の流れを比較することで肺動脈と大動脈の位置関係(血管の形態)も確認することができます。

血流の方向が肺動脈と大動脈の向きとちょうど一致するので正常であれば必ずX字のように交差します。

もし交差していなかったら大血管転移などの可能性が高くなります。

血管の形態を評価する3 vessel viewと動脈管の血流を評価する3 vessel tracheal view

4 chamber viewからエコープローブを胎児頭側に並行移動すると3 vessel viewと3 vessel tracheal viewを確認することができます。

この2つの断面像は動脈管があるからこそ確認することができる胎児にしかない特別な断層像です。

この断面像は心臓から出てくる血管(大動脈、肺動脈、動脈管)の複雑な位置関係、つまり血管の形態を確認するための断面像です。

この断面蔵が正常に見えなければ大動脈、肺動脈、動脈管に何らかの異常がある可能性がわかります。

具体的には大血管転移やFallot四徴症、動脈管閉鎖症などが挙げられます。

いろいろな心疾患がありますが、このように心臓を構成する心房、心室、血管の形態と弁、卵円孔、動脈管の血流を確認することでほとんどの心疾患を見つけることができます。

もちろん代表的な心奇形を診断できることも大事ですが、それぞれの断面像が正常に確認できなければ心奇形があるかもしれないと考え、専門施設に紹介できるようになれれば十分だと思います。

 

これまでの話のまとめたのが下の図になります。

 

いかがでしたでしょうか?

今回は初学者にはとっつきがたい胎児心臓超音波検査について解説しました。

この講座を見たあとに成書を見ると、より理解が進むのではないかと思います。

 

またいつか最も診断の難しい総肺動脈還流異常症についても取り上げたいと思います。

今回は以上です。

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