お産の神様から直伝 鉗子分娩 基礎編

  • 2020年10月11日
  • 2020年10月11日
  • 産科
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鉗子分娩は子宮口全開大後の急速墜娩の方法の一つです。

肩甲難産の解除や鉗子分娩は産科医師であれば是非ともマスターしたい手技の一つです。

今回は「鉗子・お産の神様」と言われてきた私の師匠から教わった鉗子分娩の方法についてお話したいと思います。

 

 

鉗子分娩と吸引分娩

鉗子分娩と吸引分娩は子宮口全開大後の急速墜娩の手技です。

しかし、まったく別の手技といってもいいでしょう。

まずは吸引分娩と比較したときの鉗子分娩のメリットについてみていくことにしましょう。

 

吸引分娩は頭血腫による新生児黄疸が多い

胎児で最も娩出しにくいところは児頭です。

吸引分娩では頭蓋骨を吸引しながら胎児を娩出します。

しかし、その構造上、吸引カップを引っ張る力の全てがどうしても児頭にかかりません。

陣痛がない状態で吸引圧をかけて牽引すると頭皮だけが引っ張られてしまうため、頭血腫ができてしまいます。

そのため陣痛時に牽引しなければ吸引分娩は効果がありません。

陣痛を補助すると捉えた方がいいかもしれません。

吸引分娩は手技としては比較的しやすい手技ではありますが、おそらく吸引分娩を選択するころには児頭の実質が下がらずに産瘤も大きくなっていることがほとんどです。吸引分娩のカップを選択するときは必ず産瘤の大きさよりも広いカップを選択しないといけません。なぜなら産瘤よりも小さいカップを選択すると産瘤のみを牽引して頭血腫を大きくするだけしかしないからです。

 

鉗子分娩は児頭を直接牽引します

それに対して鉗子分娩は顎から引っ張ると考えてください。

つまり児頭をそのまま牽引することができ、陣痛間欠時にも牽引することができます。

そのため滑脱などの心配もなく鉗子を引っ張る力がそのまま児頭の牽引力に繋がります。

これが鉗子分娩の強みです。

しかし、鉗子分娩は吸引分娩と比較して手技の習得がやや困難であることや鉗子のかける向きによっては眼球損傷などにつながるなどのリスクから吸引分娩よりも敬遠される傾向にあります。

しかし、陣痛がなくても十分な牽引力をもつことから無痛分娩での微弱陣痛などでとても大きな力を発揮します。

さて今からは鉗子分娩の手技について説明していきます。

 

鉗子の挿入の基本

鉗子の挿入の時期

吸引分娩と鉗子分娩では挿入方法も異なります。

吸引分娩では児頭が最も下降する陣痛期に吸引カップを挿入します。

しかし鉗子分娩では鉗子を挿入する隙間ができる間欠期に鉗子を挿入していきます。

鉗子の形

さて鉗子の挿入方法について学ぶ前にまず鉗子の形を見てみましょう。

鉗子は持ち手の鉗子柄(かんしへい)と児頭をつかむ鉗子匙(かんしかい)に分かれます。

鉗子匙は児頭を掴むために曲線を描いています。

そのため直線上に鉗子を突っ込んでも鉗子はうまく児頭にはまり込みません。

鉗子の挿入の基本は鉗子匙を児頭に押し当てて、そして図のように児頭に沿わせるようにして挿入していきます。

これが鉗子の挿入の基本です。

鉗子の挿入の注意点

鉗子を挿入するときの大切な注意点は次の通りです。

  • 鉗子は必ず左葉から挿入します。
  • 鉗子の重力のみで挿入する。
  • 抵抗があれば無理して押し込まない。

必ずここに注意しなければいけません。

 

実際の挿入方法

鉗子も持ち方

鉗子の柄の先はどうしてあんな形をしているのでしょうか?

それはつまむようにして持つためです。

まずは左手の指先で鉗子柄の先をつまむようにして鉗子を持ちます。

 

鉗子の挿入

さて鉗子をいざ挿入しようとしても実際にはそう簡単にいきません。

なぜなら鉗子を児頭に押し当てる際に足が邪魔をしてしまうからです。

ただし唯一スペースがある場所があります。

それは足と足の間です。まずはここから鉗子を挿入していきます。

しかし、そのまま児頭に沿って鉗子を挿入していったら前方後位であれば鉗子匙が顔面にかかってしまいます。

そのため鉗子匙が顔面にかからず適切な位置にかかるように鉗子を誘導する必要があります。

図のように右手の人差指で誘導しながら、鉗子の重さのみで鉗子の接線が適切な位置にくるようにコントロールしながら鉗子を挿入していきます。

ここで注意しないといけないことがあります。

それは少しでも抵抗があれば無理して入れないことです。

必ず鉗子は力を入れなくても自然な力で入るようになっています。

つづいて右葉を挿入していきます。右葉も左葉の場合と同様に挿入していきます。

試験牽引

左右の鉗子が入ったら鉗子を合わせてみます。

もしうまく挿入されていなかったら鉗子は合いません。合わなかったら再挿入します。

もし合えば次に間欠期に試験牽引をしてみます。児頭を引っ張れるかを手の感覚で確認します。

できたら陣痛に合わせて牽引します。

 

鉗子の牽引

鉗子はむやみやたらに牽引してはいけません。

手を離してみたときに鉗子の柄の方向が牽引する方向です。

なぜならば鉗子かいの形は骨盤誘導線にそって作られているからです。

基本的に1回の牽引で児頭を娩出していきます。

鉗子の引き方はまずは両手で図のように牽引します。

そして排臨・発露まできたら両手だと無駄に力が入ってしまうため片手で牽引します。

片手鉗子とも呼ばれます。

鉗子の抜去

鉗子の牽引によって児頭がある程度下降してきたら鉗子を抜去します。

挿入のときとは異なり児頭が下降しているため足も邪魔はしなくなります。ちょうど鉗子と大腿が平行となるように鉗子を足側に倒すことで自然と鉗子は抜去できます。

以上が鉗子分娩の基本です。次回は応用編について説明していきます。

 

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