ゼロから理解する不妊治療 パート3 卵巣刺激と採卵

今回からは卵巣刺激と採卵について説明していきます。

 

卵巣刺激について説明する前に卵子がどのように成長するのかを説明します。

つづいて加齢に伴う卵子の老化、AMHと残存卵子数について説明します。

そして最後に卵巣刺激について説明していきます。

 

細胞分裂にはそのまま自分の体をコピーする体細胞分裂と卵子や精子のように子孫を残すための減数分裂があります。

しかし、この限数分裂は分裂の途中で休止してしまったりと理解が難しいところです。

まずはどうして途中で減数分裂が休止するのかなどに迫るところからスタートしましょう。

 

どうして卵子は減数分裂の途中で休止してしまうの?

それは遺伝子の多様性を作り出すためです。

減数分裂の途中で休止すると染色体が形成された状態で分裂がとまります。

この染色体の形成された状態で休止するということが多様性を生み出すのにとても大切な役割を果たします。

その原理が次の2つです。

①染色体の乗り換え

染色体は乗り換えといって母方の染色体と父方の染色体と交差することがあります。

これがダイナミックな遺伝子の多様性を生み出します。

②遺伝子変異が入りやすい構造

細胞核のままでは遺伝情報であるDNAは物理的に圧縮されてしまうため変異が入りにくい構造となっています。

それに対して染色体の状態ではDNAはゆるく収納されているため変異が入りやすい構造となっています。

そのため減数分裂前期に休止することで卵子は変異が入りやすく、その結果、遺伝子の多様性が生まれる原因となります。

卵子の老化

遺伝子に変異が入ることは多様性を生み出す可能性がある反面、変異が入って欲しくないところにも変異が入ってしまう恐れがあります。

また染色体の分離もうまくいかなくなる可能性も高くなります。

これが卵子の老化や質の低下と言われる原因の一つです。

たくさんの卵子があり、全ての卵子に異常を生じるわけではないのですが、その確率は年齢とともに徐々に増加していきます。

 

授精する絶妙なタイミング

さてLH サージによって卵子はようやく減数分裂を再開します。

そして授精してようやく減数分裂を終了します。

どうして減数分裂を終了してからでないと授精しないのでしょうか。

それは減数分裂が終了してからでは卵子の核が形成されてしまい、精子の遺伝情報が核内に収納されないからです。

精子は本当に絶妙なタイミングで授精するのです。

年齢と残存卵子数とAMH

卵子は年齢と共に多様性を生み出すとともに老化や質が低下してしまうとお話ししました。

それと同時に年齢とともに卵子は数が減少していきます。

 

出生時は200万個あるといわれる卵子は月経開始時には20万にまで減少し、1周期に約1000個程度卵子は失われていきます。

そして閉経時には1000個くらいにまで減少してしまいます。

 

残存卵子数がどれだけあるのかを調べるのがAMH(抗ミュラー管ホルモン: Anti Mullerian Hormone)値の測定です。

これは卵子とその周りの細胞が成長してできる胞状卵胞が分泌するホルモンです。

AMHの値が高いほど残存卵子数は多く、低いほど残存卵子数は少ないと推測されます。

しかし大切なことはAMHが低いからといって妊娠確率が低いというわけではないということです。

確かに一見卵子数が少ないと妊娠確率も低いように考えがちですが、妊娠確率とAMHからわかる残存卵子数は全く別物と考えてください。

AMHはあくまで採卵方法を考える上での一つの指標なのです。

 

卵巣刺激と採卵

ここから採卵についてお話ししていきます。

採卵は膣から卵巣に針をさして卵子を取ってきます。

つまり、かなり侵襲性が高い処置なので一度の処置でたくさん卵子を取りたいです。

しかし通常の月経であれば、一つの卵子だけしか成長して排卵されません。

そこでホルモンを調節することでたくさんの卵子を成長させます。

これを卵巣刺激といいます。

 

卵巣刺激には大きく2つの方法があります。

たくさんのホルモンを使用する高刺激法(調節卵巣刺激法)となるべく少ないホルモンで卵巣を刺激する低刺激法です。

 

調節卵巣刺激法(高刺激法)

高刺激法は一般的に調節卵巣刺激法と呼ばれ、たくさんの卵子を一気に成長させ成熟卵胞を得る大量生産する方法です。

若年でAMHが高い、つまり残存卵子が多い場合に主に選択されます。

卵子を成長させるにはFSH作用があるhMG注射が主に使用されます。

名前の通り卵巣を強く刺激してたくさんの卵子を成熟させるため、卵巣への負担が強く、採卵後には少なくとも数周期の卵巣の休息が必要です。

低刺激法

低刺激法はマイルド法とも呼ばれ、高齢でAMHが低い、つまり残存卵子が少ない場合に主に選択されます。

高刺激法では成熟卵子を大量生産するため、質の問題が言われています。

(ちなみにもっとも質が高いのは自分自身のホルモンで卵子を育てる完全自然周期です。)

残り少ない卵子を大切に育てるためにクロミフェンなどを用いて自分自身のFSHを最大限放出させて卵子を育てる方法です。

自分自身のホルモンによって卵子を成長させるため、より自然に近い形で卵子を成長させるため質は高いと言われています。

ちなみにそれでも卵子の成長が芳しくなければ少量のhMG注射を加えて卵子の成長を手助けします。

低刺激法よりはhMG注射の分、卵巣に対する刺激量が増えるため中刺激法とも呼ばれます。

 

以上が卵巣刺激の概略でした。

実は卵巣刺激にも卵巣の状態によってたくさんの方法があります。

次回はその詳細について説明していきます。

 

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