婦人科で扱う悪性腫瘍は大きく分けると5つあります。
子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌(卵管癌、腹膜癌)、膣癌、そして絨毛性疾患です。
この中で一番理解しにくくイメージがつかないのが絨毛性疾患ではないでしょうか?
今回はこの絨毛性疾患について見ていくことにします。
絨毛性疾患とは
絨毛性疾患とは一言で言うと胎盤から発生した腫瘍です。
胎盤のゾンビというイメージです。
大きく分けると、
胞状奇胎、侵入奇胎、そして絨毛癌に分類されます。
それではそれぞれについて見ていきましょう。
胞状奇胎とは
胞状奇胎とは胎盤の腫瘍です。
その原因は異常受精によって生じた受精卵です。
基本的にヒトの細胞が生きるためには父方の染色体1セットと母方の染色体1セットの合計2セット以上の遺伝情報が必要となります。
しかし、卵子に2匹の精子が入ってしまったり、1匹の精子の染色体が受精後に2倍になってしまったりする場合があります。
この異常受精が胞状奇胎の原因です。
さて胞状奇胎はあくまで胎盤の腫瘍です。
胎盤はhCGを産生するので、腫瘍化した胎盤である胞状奇胎も大量のhCGを産生します。
そのため胎嚢がないのに高濃度のhCGを検出する場合などに疑われます。
全胞状奇胎
さて、何らかの原因で卵子の核が抜けてしまって2匹の精子が入ってしまったり、
1匹の精子の染色体が受精後に2倍になってしまったりする場合した場合は、
父方由来の遺伝情報だけになります。
これを2倍体といいます。
父方由来の遺伝情報だけだと、理由はわかりませんが胎盤の腫瘍ができてしまいます。
これを全胞状奇胎といいます。
部分胞状奇胎
これに対して、正常の卵子に2匹の精子が入ってしまったり、1匹の精子の染色体が受精後に2倍になってしまったりする場合は、母方1セットと父方の2セットの合計3セットの受精卵が完成します。
これを3倍体といいます。
この場合、母方の染色体と父方の染色体が存在するので、異常な胎盤の腫瘍だけではなく胎児成分もつくられるため部分胞状奇胎と呼ばれます。
ただし、全胞状奇胎も部分胞状奇胎も異常なセットの染色体をもった細胞なので胎児が発育することはありません。
胎児共存奇胎
ちなみにごく稀ですが、正常な受精卵と異常な受精卵である胞状奇胎が双子として着床することがあります。
これを奇胎合併妊娠といいます。
あくまで正常な受精卵なので胎児は発育します。
紛らわしいのが部分胞状奇胎です。
部分胞状奇胎は正常な受精卵から作られた胎盤が腫瘍化したものではないので注意が必要です。
部分胞状奇胎は胎児成分はあっても正常な核型ではないので生育は見込めません。
侵入奇胎と絨毛癌
胎盤はもともと子宮内膜に根を張るように浸潤する力があります。
胞状奇胎はあくまで無限に増殖するだけですが、胎盤のもともと持つ浸潤能に異常を来して子宮筋層まで侵入するようになります。
これを侵入奇胎といいます。
さらに悪性化すると絨毛癌となります。絨毛癌までなると絨毛成分すらわからなくなります。
さて絨毛癌はすべての妊娠でなりうると言われています。
つまり正常妊娠でも絨毛癌になります。
実際に絨毛癌の先行妊娠は胞状奇胎(15%)よりも正常妊娠(50%)の方が多いです。ちなみに流産は35%です。
正常妊娠と絨毛癌
胞状奇胎であれ正常妊娠であれ絨毛癌への道のりは類似しています。
正常妊娠での分娩は胞状奇胎では掻爬です。
その後、いずれも侵入奇胎を経て絨毛癌となります。
しかし、正常妊娠後でも侵入奇胎になり得ることはあまり知られていません。
どうして正常妊娠には侵入奇胎になりうることがあまり知られていないのでしょうか?
それは正常妊娠や流産後はフォローしないからです。
胞状奇胎では最低でも5年間は密に診察を受けてもらいます。
そのため侵入奇胎なども見つけることができます。
しかし、正常妊娠や流産では、出産後は病気でもないため診察を受けることもないです。
そのため侵入奇胎のような状態となっていても見過ごされてしまい、さらに悪化して止まらない性器出血などの自覚症状が出て初めて受診します。
このときには侵入奇胎のような状態を通り越して絨毛癌となってしまっていることがほとんどです。
臨床的絨毛癌スコア
癌の診断は必ず病理検査、つまり顕微鏡でがん細胞を確認することが必要となります。
つまり絨毛癌の診断は本来であれば子宮全摘してがん細胞の有無や浸潤の程度を評価する必要があります。
しかし、絨毛癌は妊娠可能年齢の女性の疾患です。
しかも化学療法が奏功し、罹患後であっても妊娠出産が可能な疾患でもあります。
そこで使用されるのが絨毛癌診断スコアです。
そこで先行妊娠や画像検査、hCG濃度などといった各評価項目をスコア化することで子宮を摘出しなくても侵入奇胎や絨毛癌と診断することができます。
この絨毛癌診断スコアは実際の病理結果とも一致率もかなり高いことが知られています。
さて以上が絨毛性疾患のエッセンスです。このほかにも中間型トロホブラストから発生したPSTTやETTなども絨毛性疾患として知られていますが、症例数も少ないため、今回は割愛しました。
またどこかで解説していきますね。
以上が絨毛性疾患についてでした。