今回は双胎妊娠です。
双胎妊娠の中でも特に病態が理解しづらいのがMD双胎について見ていくことにしましょう。
MD双胎は共通の胎盤を持っているが故、様々な合併症があります。
有名なものがTTTS(双胎間輸血症候群)ですが、実は様々な合併症があります。
MD双胎の病態の基礎
MD双胎では胎盤を共にしていることから次のような弊害がでます。
①血流の不均衡:2児の血管が吻合・交通してしまうこと
②胎盤領域の不均衡:2児の胎盤の占有面積に差がでてしまうこと
です。
血管吻合による血流の不均衡で発生する合併症
MD双胎では2児の臍帯の血管が交通してしまうことがあります。
血管という根が成長していくときに2児の血管の根がぶつかり吻合・交通してしまうのです。
動脈や静脈同士が交通する分にはお互いに圧が等しいのでほとんど問題になりません。
しかし、動脈と静脈が交通してしまうと、動脈から静脈へと血液が流れてしまいます。
それによって出てくる合併症が交通する血液量が少ない順にTAPS、TTTS、そしてAFFHです。
TAPS(Twin Anemia Polycythemia Sequence: 双胎貧血多血症)
少量の交通であれば供血児(動脈側で血液が出ていく側)は少量の出血の持続による慢性的貧血となります。
慢性的な貧血であるため代償機構により血漿成分を増やすことで血管内のvolumeを維持します。
そのため体内の血液循環は保たれます。受血児(静脈側で血液を受ける側)では血液を少量ずつですが受け取っていくためだんだん多血となっていきます。
もちろん慢性的な経過であるため多血でも大きな障害は出ません。
TTTS(Twin-Twin Transfusion Syndrome: 双胎間輸血症候群)
TAPSよりも太い血管吻合の場合に起こるのがTTTSです。
TAPSの場合のような少量な血液の交通量をさらに超えると今度は代償できないくらいに一方は血液を失い、もう一方は血液を受け取ることになります。
失う側は失血性ショックの状態となります。
そのため腎臓への血流量が減少し腎前性の腎不全となります。腎不全となると尿量が減少、つまり羊水を作ることができなくなり羊水量が減少します。
血液を受け取る側は急激に大量輸血されるため腎血流も増えます。
そのため尿量が増えます。
つまり大量の羊水を作ります。
さらに急激な輸血による負荷によって心臓がそれに耐えられなく心不全となります。つまり全身がむくんでしまいます。
これがTTTSの病態です。
AFFH(Acute Feto-Fetal Hemorrhage: 急性胎児間血流移動)
TAPやTTTSの場合よりもさらに太い血管吻合の場合に起こるのがAFFHです。
もともと血管吻合があり陣痛などのイベントによって太い血管が交通してしまうと急激に血液が移動してしまい、一方は多血、もう一方は貧血に陥ってしまいます。
これをAFFHといいます。
ちなみにもし一方の児が死亡してしまった場合には血圧が0となってしまいます。
そうなると動脈–動脈吻合や静脈–静脈吻合であっても血圧が0である死亡した児側に血液が急激に流れてしまいます。
しかも血圧が0であるため急速に血液が吸い取られてしまい、児も命の危険にさらされてしまいます。
これは太い血管吻合によるものという訳ではありませんが、急激な血流の移動を伴うためAFFHといいます。
胎盤領域の不均衡による合併症
さてMD双胎ではDD双胎と異なり同じ胎盤を共有しています。
しかし半分半分で分け合っている訳ではありません。
例えば7:3のような感じで分け合うこともあります。
そうなると小さい胎盤の方は胎盤から分け与えられる血液量が少なくなるため成長が緩慢となってしまいます。
この胎盤の占有面積の違いにより成長に差が出てしまうことをselective FGRと言います。
しかしTTTSと異なり小さいなりに血流量は保たれるため羊水量に差がでることはありません。
特殊な病態
TRAPS(Twin reversed arterial perfusion sequence: 無心体双胎)
MD双胎で一方は正常なのに、もう片方に心臓がない奇形となってしまう場合があります。
心臓がないため血圧は0に限りなく近いため吻合した血管を通して血液が正常児から無心胎児側へどんどん移動してしまいまいます。
無治療であれば予後は極めて悪いと言われています。
今回はMD双胎とその合併症の病態について見てきました。次回はMD双胎の周産期管理についてまとめていきたいと思います。