今日のテーマは出生前診断です。
最近では、母親の血液検査で染色体異常の可能性がわかるNIPTといった検査も出てきました。
この他にもコンバイド検査やクワトロ検査など様々な検査があります。
今回はこれらの検査の説明をできる限り分かりやすく説明していきます。
先天性疾患について
実は生まれてくる子供の5%弱はなんらかの先天性疾患を持っていると言われており、その原因は染色体異常や遺伝子の変異など多岐にわたります。
先天性疾患の中で最も有名なのはダウン症などの染色体異常ですが、実際に先天性疾患の原因となるのは25%くらいです。
先天性疾患の半分以上は多遺伝子の異常が原因なのです。
出生前診断でわかるのは染色体異常
まず出生前検査の仕組みについて見ていく前にどんなことが分かるかについて見ていきます。
出生前検査でわかるのはあくまで染色体異常です。
具体的には、ダウン症である21トリソミーや18トリソミー、13トリソミー、そして性染色体異常であるターナー症候群などです。
出生前診断では筋強直性ジストロフィーといった遺伝性疾患や乳がんや卵巣癌の家系といったものは分かりません。
そのほかにも癌に関連する遺伝子の変異なども分かりません。
ちょっと臨床
トリソミーとして有名なのは21番染色体、18染色体、そして13染色体です。
しかし、20トリソミーや1トリソミーなどはありそうで教科書などにも出てきません。
それはどうしてでしょうか?
それは遺伝子の数が21番、18番、13番が他の染色体と比較して少ないからです。
遺伝子を持つ染色体は父と母の2セットが必要となります。
1セットでも3セットでもエラーが起きてしまいます。
つまりエラーが起こると流産してしまいます。
原理的には1トリソミーや5トリソミーなどもありますが、それらは全て正常に分裂できずに流産してしまうのです。
しかし、21番染色体や18番染色体は遺伝子数が少ないためにエラーが起こったとしても致命的な影響を受けないことがあります。
もちろん、致命的な影響を受けることがほとんどであるため、21トリソミーを含めてほとんど流産してきてしまいますが、その中でも致命的な影響を受けずに生まれてきた子がダウン症やエドワード症候群と呼ばれる子供たちです。
つまり彼らは精鋭中の精鋭なのです。
確定的検査と非確定的検査
出生前診断には大きく分けると2つあります。
確定的検査と非確定的検査です。
確定的検査とは、ずばり診断がつく検査です。
具体的には絨毛検査と羊水検査があります。
しかし、胎児の細胞成分を直接採取するため侵襲が強い検査であるため、わずかではありますが流産などのリスクがあります。
それに対して非確定的検査はあくまで確率しか出せません。
超音波所見や血液検査の結果などといった状況証拠から確率を算出する検査で侵襲は低い検査です。
具体的にはNIPT、コンバインド検査、そしてクワトロ検査があります。
それでは具体的に各検査について説明していきます。
コンバイド検査
この検査は年齢や検査所見などの情報から確率を算出する方法です。
この検査でわかるのはダウン症(21トリソミー)とエドワード症候群(18トリソミー)です。
少し専門的になりますが、年齢などの情報から統計的に染色体異常を持つ平均的な確率、つまり罹患率がわかります。
これを検査前確率といいます。
そこに超音波検査所見(胎児の首の浮腫:NT肥厚)や血液検査所見(母体血清マーカー:PPAP-A、hCG)のデータから検査前確率を補正して、その人独自の染色体異常を持つ確率を導き出すことができます。
これを検査後確率といいます。
検査ができる期間はNT肥厚が正確に測定できる期間、つまり11週から13週までです。
それ以前や以降では正確に測定できないため不正確な結果となってしまいます。
ちなみに検査結果が帰ってくるまでにはおおよそ2週間程度かかります。
つまり15週ごろまでには結果がわかります。
クワトロ検査
この検査も年齢から推定される染色体異常をもつ確率を、血液検査から得られる4つのマーカーの値(AFP、hCG、uE3、InhibinA)から補正して、その人独自の確率を算出する方法です。
検査期間は15週から可能ですが、検査結果が返ってくるまでに2週間程度かかるため、遅くとも17週までには行うことが推奨されます。
その結果は、確率とともにScreen positiveやScreen negativeといった具合に示されます。
簡単に言うと基準となる確率よりも高ければpositive、低ければnegativeといった具合です。
この検査の特徴はnegativeであれば限りなく染色体異常の確率は低いということです。
しかし、positiveと出た場合でも実際の染色体異常を持つ確率は数%程度と、ほとんどのお子さんは染色体異常を持っていないという偽陽性が問題となります。
これらの非確定的検査の検査結果は確率として、各年齢での平均的確率と比較して高いか低いかしかわかりません。
低いとでれば一安心ですが、高いと出た時の解釈が問題です。
例えば、年齢での確率が1/300で、補正した確率が1/50で確率が高くなりましたといった具合で結果が帰ってきます。
この確率をどう解釈、受け止めるのかという問題です。
50人産んで1人染色体異常の子供が生まれるかどうかといった確率です。
ところで年齢における染色体異常を持つ統計的な確率は年齢が上がれば上がるほど高くなります。
つまり35歳以上の場合、もともとの確率が高いため、補正しても結果は高いままとなってしまいます。
そのため35歳以上でコンバインド検査やクワトロ検査を受ける場合は注意が必要となります。
実際に検査を希望される場合は、これらのことをしっかりと理解した上で検査を受けていただく必要があります。
実際に妊娠している時点でその子が染色体異常を持っているかどうかは決まっています。
非確定的検査は、あくまで血液検査によるマーカーの値や超音波検査などの所見といった状況証拠を集めているに過ぎないです。
NIPT
以上がもともとよく行われていた出生前診断でしたが、確率を補正して結果を出すという検査の特性上、偽陽性や結果の解釈などの問題がありました。
そんな中、登場したのがNIPTです。
これは今までの原理とは全くことなり、母体血液中にわずかに紛れ込んでいる胎児由来の染色体DNAを検査するものです。
母体血液中には胎児の染色体DNAがわずかですが紛れ込んでいます。
例えば21トリソミーでは21番染色体DNAが通常よりも多く母体血中に存在します。
その差を検出するのがNIPTです。
原理的には男か女かも予測できますが産み分けの問題もあるため、原則として21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの3疾患しか検査はできません。
ちなみにこの検査でも陽性だった人の全てが染色体異常を持つわけではありませんが、それでもコンバインド検査やクワトロ検査よりも高い陽性的中率(陽性と結果がでたときに本当に陽性である確率)を誇ります。
ただし、年齢が若くなればなるほど陽性的中率は低下します。
この検査で陰性であった場合はほぼ染色体異常はないと言われています。
確定的検査
つづいて確定的検査です。
これは直接、胎児の細胞を検査するためほぼ確実に診断がつきます。
15週くらいまでは羊水採取は困難であるため絨毛、つまり胎盤から細胞を採取します。
15週を過ぎると羊水が採取できるようになります。
羊水中には胎児の細胞が浮遊しているためそれを採取するのです。
具体的な検査の方法ですが、rapid FISH法とG-bandingがあります。
rapid FISH法
rapid FISH法とは簡易的な染色体検査と思ってください。
染色体は実は細胞が分裂するときにしか観察することができません。
通常は細胞核しか観察することができません。
ちょうどバラバラな本のページが核の状態と考えてください。
それをまとめて合計46冊の本にしたのが染色体です。
採取できた細胞に13、18、21染色体に特有のDNA配列に結合する光るタグをつけます。
ちょうど付箋のようなものです。
この光るタグの数を調べることで染色体の数を特定する方法です。
図のように21番染色体が赤で光るマーカーが3つ光れば21トリソミーと診断します。
結果は数日でわかります。
G-banding
さてG-bandingとは取れた細胞を培養します。
そして培養して細胞分裂する際に形成される染色体を調べる方法で、直接染色体を観察できるので最も確実に染色体異常を調べる方法となります。
しかし細胞を培養しないといけないためうまく培養できなかった場合は結果は出てこないため、あらかじめrapid FISH法も同時に行うことが多いです。
破水のリスク
羊水検査をする場合は羊膜に穴が開いてしまうため破水や感染などのリスクがあります。
しかし、99%以上は自然閉鎖するため問題はないですが、0.3%、つまり300人に1人の割合で完全破水や死産となることがあります。
以上が出生前診断の大まかなエッセンスです。
出生前診断で陰性という結果が欲しいという安易な理由で高額な検査を受けることは本当にいいのかどうかは考える必要があります。仮に検査がもし陽性にでたとしたら、たとえ確率は低くても生まれるまではもやもやした気持ちを残したまま10カ月を過ごさないといけません。
そこを正しい情報をもって患者さんを導くのが我々医療従事者の仕事となります。この記事を参考に知識をさらに深めていってください。