今回は妊娠高血圧症について見ていくことにします。
妊娠高血圧症は妊娠を契機に血圧が上昇してくることを言いますが、妊娠高血圧腎症であったり子癇発作やHELLP症候群であったりと様々な合併症があり病態が理解しにくい分野でもあります。
でもこれらの病態は単純明快に理解することが可能です。
まずはイメージから妊娠高血圧症について理解するところから始めていきましょう。
つづいてその診断基準、最後に治療について見ていくことにします。
妊娠高血圧症の原因は
妊娠高血圧症の大きな原因は胎盤の血管の問題です。
なんらかの理由で胎盤の血管に異常が生じることで胎児に十分量の血液が供給されないために胎児にたくさんの血液を供給しようと血圧をあげようとします。
これが妊娠高血圧症の原因です。
具体的には胎盤の血管が細かったり胎盤の成長が進まず小さかったりした場合です。
それでもある程度の大きさまでは成長できます。
しかし、成長が進めば進むほど必要となる血液量も増えてくるため、血管が細かったり胎盤が小さかったりすると十分な血液が供給されなくなってしまうのです。
ちなみに妊娠高血圧症の定義は20週以降に発症する高血圧症と定義されます。
どうして20週かというと20週以降に胎児が急激に成長するためです。
逆を言うと20週くらいまでは不良な血管や胎盤でも胎児の成長をなんとかまかないきれるというわけです。
そうでなければ早い段階で流産してしまいます。
妊娠高血圧症の合併症
ふつうの高血圧と異なり、妊娠高血圧症では妊娠期間という短い期間に血圧が急に上昇してきます。
そのため臓器が血圧上昇に慣れる時間がないため様々な合併症がでてきます。
まず血圧が上昇すると全身の血管が障害を受けてきます。
特に圧力によって血管内皮が障害を受けます。
そこで血管内皮を修復しようと血小板が消費されたり血液凝固系が活性化されたりするAT3が消費されてきます。
もし血小板やAT3が減少してきたら注意が必要です。
さらに血管内皮障害が進むと血管でできているような臓器が障害を受けるようになってきます。
血管でできている臓器とは、脳、肺、肝臓、腎臓、そして胎盤です。
脳が障害された場合は子癇発作や脳卒中が起こります。
肝臓が障害された場合は肝酵素の上昇などの肝機能障害、HELLP症候群。
腎臓が障害された場合はタンパク尿やクレアチニンの上昇といった腎機能障害。
胎盤の血管が障害された場合は胎児発育遅延が起こります。
妊婦健診で尿検査で蛋白尿の有無を調べるのは血圧上昇により症状が出やすいのが腎臓だからです。
さて妊娠高血圧症で問題になるのは血管の破綻です。
特に脳出血や胎盤早期剥離は母児の生命に直結してきます。
ちなみに実質臓器といわれるような肝臓や腎臓では基本的には出血はありません。
妊娠高血圧症の定義
さてここまでの病態を理解したところで妊娠高血圧症の定義について見ていきましょう。
まず妊娠20週以降に出現した高血圧(140/90mmHg以上)は妊娠高血圧症候群といいます。
そして血管内皮障害によって臓器障害が生じたら妊娠高血圧腎症といいます。
具体的な合併症は下記の通りです。
血液凝固異常(血小板減少<15万、DIC、溶血)
脳(脳卒中または神経学的障害(子癇、視野障害、頭痛など))
肺(肺水腫)
肝機能障害(ALTまたはAST>40IU/L)
腎障害 (タンパク尿(300mg/日以上またはP/C比0.3以上)またはCre>1.0mg/dL)
胎盤(胎児機能不全)
腎症といいますが腎臓以外の障害でも妊娠高血圧腎症といいます。
*かつては軽症や重症とも言われていましたが、基本的に臓器障害が出ている時点で重症なので、重症と言う言葉は使用しません。
もともと高血圧症の場合
さてもともと妊娠20週前に高血圧や腎障害を持つ人もいます。
高血圧だけであれば高血圧合併妊娠といいます。
そんな人が増悪して臓器障害、つまり妊娠高血圧腎症が起こった場合は、加重型妊娠高血圧腎症といいます。
重症の定義
160/110mmHg以上であれば重症と表現します。
早発型か遅発型か
34週未満で発病した場合、早発型。
それ以降であれば遅発型と表現します。
どうしてこのような分け方をするかというと34週は肺が成熟するかしないかのラインです。
34週、つまり肺の成熟前に発症した場合は予後が悪くなります。
妊娠高血圧症の治療
妊娠高血圧症の原因は胎盤の血管の異常です。
そのためそれを治療することはできません。
では妊娠高血圧症の治療は何のためにするのでしょうか?
それは母の脳卒中やHELLP症候群といった母体の生命の危険の予防するためです。
そして、できる限り妊娠を継続させるためです。
妊娠高血圧症では胎児への血流が維持するためにあえて血圧を高くしています。
そのため血圧を低くしてしまうと逆に胎児への血流が減少してしまいます。つまり治療はいかに胎児血流を下げずに母体の血圧を下げるのかが重要になります。
下記がよく使用される薬剤です。
内服
第一選択
メチルドパ(アルドメット®︎)
昔から使われていて比較的安全に使えます。効果も安定していますが作用までの時間が長いという欠点があります。
第二選択
ニフェジピン(アダラート®)
短時間で作用し降圧効果も高いのが特徴です。しかし、降圧しすぎることによる胎児血流の低下に注意が必要となります。また短時間しか作用しないため血圧の日内変動により脳血管障害のリスクになるとも言われています。
静注
ニカルジピン
高血圧緊急症の第一選択です。静注でのスケール対応が可能で使いやすいのが特徴です。ただし子宮収縮抑制作用もあるため分娩時などは注意が必要となります。
子癇予防
硫酸マグネシウム(マグセント®︎)
血中マグネシウム値が高くなると神経の発火が抑えられます。
つまり神経の機能が低下します。
硫酸マグネシウムの最大の目的は脳神経の異常な発火、つまり妊娠高血圧症による子癇発作を抑えるのが最大の目的となります。
ちなみに神経の機能が低下するということはそれとつながる筋肉の機能も低下させます。
子宮であれば収縮も抑えられます。そのため切迫早産の治療でも使用されることがあります。
しかし、さらに強く効果が出てしまうと全身の筋肉の動きも抑えられたり、最悪の場合、呼吸筋の機能も低下してしまいます。
そのため血中マグネシウム値が高くなりすぎないように注意する必要があります。
実際の治療
早発型の重症妊娠高血圧症で胎児発育遅延の場合は本当に悩ましいところです。
20週台で1000g未満だったりした場合、胎児を娩出してしまうと脳性麻痺のリスクが相当高いです。
しかし、胎児娩出しないと重症妊娠高血圧症では脳血管障害やなどのリスクとなってしまいます。
最悪の場合、胎児死亡になってしまうかもしれません。実際の重症の妊娠高血圧の治療はそんな中で管理をしなければなりません。
今回は以上です。