イラストで理解する排卵誘発と採卵 ゼロから理解する不妊治療4

  • 2020年11月22日
  • 2020年12月16日
  • その他
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今回は不妊治療で理解が難しい排卵誘発や調節卵巣刺激法について見ていくことにします。

 

最後まで読むと、

  • 排卵誘発と調節卵巣刺激法が理解できます。
  • 排卵誘発や調節卵巣刺激法で使用する薬剤(クロミフェン、hMG製剤、hCG製剤、GnRHアゴニスト、GnRHアンタゴニストなど)やその機序について理解できます。

 

イラストをたくさん使って説明していくので最後までついてきてくださいね。

 

キーワード

☑︎排卵誘発、☑調節卵巣刺激法、☑クロミフェン、☑hMG製剤、☑アゴニスト法、☑アンタゴニスト法、☑GnRHアゴニスト、☑GnRHアンタゴニスト、☑ショート法、☑ロング法、☑ウルトラロング法、☑マイルド法、☑LHサージ、☑フレアアップ

 

概論

以前、不妊治療には、タイミング療法、人工授精、体外受精、そして顕微受精の4つがあることをお話しました。

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タイミング療法や人工授精で大切なことは1つの卵子が成熟して排卵をすることです。

なぜ一つかというと多胎を防ぐためです。

自然に排卵することが難しい場合はお薬を使って卵子を成熟させてから排卵を促します。

これを排卵誘発といいます。

 

体外受精や顕微受精では体の外で卵子と精子を受精させます。

つまり卵巣から卵子を取り出す必要があります。

普通は1つの卵子しか成熟しませんが、それでは効率が悪いのでお薬を使って多数の卵子を成長させてから収穫します。

これを調節卵巣刺激法といいます。

それでは排卵誘発や調節卵巣刺激法について詳しく見ていくことにしましょう。

 

排卵誘発

不妊治療をされる方で最も問題となるのが排卵しないことです。

そもそも排卵しないと受精しません。

ではどうして排卵をしないかというと卵子がちゃんと成長していないからです。

どうして成長しないのでしょうか?

それは卵子の成長に必要なFSHが足りないことが挙げられます。

そこで使用されるのがクロミフェンとhMG/FSH製剤です。

 

①クロミフェン法

これは自分のFSHを頑張ってもっと出させようとする方法です。

難しい言葉でいうとクロミフェンにより内因性のFSHを間接的に増加させることで卵子を成熟させます。

②hMG/FSH法

クロミフェンを使用してもなかなか卵子の成熟しない場合、つまりがんばっても卵子の成熟に必要な自分のFSHを出せない場合は体外からFSHを補ってやる必要があります。

そこで使用されるのがFSH作用をもつhMGやFSH製剤です。これらは注射製剤です。

  • hMG製剤とFSH製剤の違い

hMGはFSH作用とLH作用があります。

それに対してFSH製剤はFSH作用のみを持ちます。

もともとhMG製剤しかありませんでしたが、LH作用も併せ持つためOHSSのリスクもありました。

そこで開発されたのがFSH作用のみをもつFSH製剤です。

 

③クロミフェン+hMG/FSH法

クロミフェンで卵子の成熟まであと少しというときに外からFSHを補ってやることで卵子の成熟を目指します。

その名の通りクロミフェン法とhMG/rFSH法の中間の方法です。

排卵刺激

十分に卵子が成熟したら排卵しないといけません。

普通の月経周期ではLHサージが排卵の合図でした。

そこで使用されるのがLH作用をもったhCG注射です。

これを注射するとおおよそ36時間後に排卵します。

自然の排卵の時期はなかなかわかりません。

そのためhCG注射をすることで確実なタイミングをはかるのです。

 

排卵のタイミングの判定

ちなみに卵子が十分に成長しているかどうかは大きさで判定します。

おおよそ20mmが成長の基準となります。

クロミフェンを使用している場合は24mm程度が基準となります。

 

 

調節卵巣刺激法

どうしてもタイミング法や人工授精でも妊娠できない場合はさらなる高度な不妊治療にステップアップする必要があります。

 

体外受精や顕微受精では体の外で受精させるため、卵子を体外へ持ってくる必要があります。

これを採卵といいます。

採卵は膣から針を刺して卵子を取ってくる痛みを伴う手術です。

そのため1回の採卵でたくさんの卵子を収穫できるのが理想的です。

しかし、自然のホルモン量では1個の卵子しか成長しません。

そこで採卵のときは薬剤を使ってたくさんの卵子を育てていきます。

これを調節卵巣刺激法といいます。

 

さて調節卵巣刺激法で大切なことは、

①たくさんの卵胞を育てること(卵胞発育)

②採卵まで排卵を抑えること(LHサージの抑制)

の2つです。

それでは一つ一つ説明をしていきます。

 

①卵胞の発育

卵子を育てるのに必要なホルモンはFSHです。

生理的なFSHの分泌量であれば1つの卵子しか成長しません。

そこで使用するのがFSH作用をもった注射薬であるhMG/FSH製剤です。

生理的な量よりも多いFSHを投与することでたくさんの卵子を育てていきます。

 

②LHサージの抑制

たくさんの卵子が育ってもLHサージが起こってしまっては、せっかく育てた卵子が全て無駄になってしまいます。

そのため採卵まではLHサージを抑制しないといけません。

そこでLHサージを抑制する方法として開発されたのがアゴニスト法やアンタゴニスト法と呼ばれる方法です。

アゴニスト法

FSHやLHはGn(ゴナドトロピン)と呼ばれ下垂体から分泌されます。

アゴニスト法とはFSHやLHといったゴナドトロピンをGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストと呼ばれる点鼻薬を使い一気に放出させて脳内のGnRHタンクを枯渇させる方法です。

つまり脳内のLHをはじめとするゴナドトロピンを枯渇させることでLH サージが起こらないようにするのです。

ちなみにアゴニストというのはホルモンを放出させる作用のある薬と考えてください。

脳内のLHやFSHといったゴナドトロピンタンクの蛇口を一気に開ける作用のある薬剤と考えるとわかりやすいかもしれません。

さてアゴニスト法では、GnRHアゴニスト投与開始時にゴナドトロピンの蛇口を全開にすることで一気にFSHやLHを放出させます。

これをフレアアップといいます。

その後はFSHもLHも枯渇してしまうのでLHサージは起こらなくなります。

アンタゴニスト法

排卵を起こさせたくないのであれば、LH サージだけを抑制すればいいと思いませんか?

そうです。その通りです。

LHやFSHの分泌を抑制する薬をGnRHアンタゴニストと呼びますが、かつては副作用が強かったためなかなか実用化には至りませんでした。そのためかつてはアゴニスト法によるLHサージの抑制が主流でした。

しかし、近年、副作用が少なくなったGnRHアンタゴニストが開発されました。

ちょうどゴナドトロピンの蛇口に栓をするようなお薬です。

商品名でいうとセトロタイド®︎(点鼻薬)やガニレスト注®︎(注射薬)です。

これらの製品の登場によって必要な時期にLH サージのみを抑えることができるようになりました。

ちなみにアンタゴニスト法ではLHの分泌は抑制されますが、FSHの分泌は保たれたままです。

しかし、採卵に必要なたくさんの卵子を成長させるにはFSH量としては足りません。

そこでhMG/FSH製剤も付加してたくさんの卵子を成長させます。

コラム

不妊症の原因として卵子が十分に成長していなのに早い時期にLHサージがおこってしまうことがあります。

これを早発LHサージといいます。

卵子が十分に成熟していないのにLHサージが起こっても実は排卵はしないのです。

卵子は成長するに従って周りの細胞が下図のようにくびれてきて排卵します。

もしLHサージのタイミングが早いと卵子が卵胞からうまく剥がれずに排卵できないことがあります。

このようなときにGnRHアンタゴニストは威力を発揮します。

卵子が十分に成長するまではGnRHアンタゴニストを投与し、卵子が成熟したところでhCG投与したら、成熟した卵子が排卵されるのです。

卵子の成熟とは

実際の不妊治療の現場で使う卵子の成熟とは、第一極体が出てくるまで減数分裂が進んだ卵子(下の図では二次卵母細胞)のことを指します。

このブログでは理解しやすくするために排卵できるくらいまで卵胞が十分に成長することに対して成熟という言葉を使用しています。

ですので実際の現場で使用する「成熟」とは異なると思ってください。

ちなみに下の図では染色体の乗り換え(倍価した染色体が交差すること)が起こっています。

アゴニスト法とアンタゴニスト法のメリット、デメリット

アゴニスト法ではゴナドトロピンの分泌を完全に抑制してしまいます。

つまりLHだけでなく卵子を育てるFSHも完全に分泌しなくなってしまいます。

そのためLHサージ(排卵)は完全に起こりませんがFSHの分泌もされません。

そのため、たくさんの卵子を育てるには大量のhMG/FSH製剤が必要となってしまいます。

hMG製剤で投与するhMG量が多ければ多いほど卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高くなってしまうというデメリットがあります。

それに対してアンタゴニスト法ではLHサージのみを抑えるため自分のFSHの分泌は保たれます。

つまりアゴニスト法と比較するとhMG注射の量は少なくて済むためOHSSのリスクは低くなります。

しかし、完全にはLHサージを抑えることはできないこともあり排卵のリスクは避けられないのが実情です。

ただアゴニスト法と比較すると注射量も少なく体への負担は少ないため多くの施設で実施されている方法でもあります。

 

ショート法、ロング法、ウルトラロング法

アゴニスト法はGnRHアゴニストの投与期間によりショート法、ロング法、ウルトラロング法に分けられます。

 

ロング法

基本的にはGnRHアゴニストの投与により完全にFSHやLHの分泌がなくなってから卵子を育てていきます。

ただし完全にFSHやLHの分泌が抑え込まれるまでには月経1周期は必要になるため、卵胞を育てるのは次の月経周期となります。

採卵まで長期間かかるためロング法と呼ばれます。

アゴニスト法として最もポピュラーな方法です。

 

ショート法

GnRHアゴニストを使用すると最初にフレアアップといって大量のFSHが分泌されることを説明しました。

一般的に40歳前後になるとFSHへの反応性が悪くなり、ロング法で使用されるようなhMG/FSH製剤の量では多数の卵子の成長ができなくなることがあります。

そこでGnRHアゴニストを投与した際に大量に分泌されるFSH(フレアアップ)も利用して卵胞を育ててる方法があります。

この方法だと月経1周期目で採卵することができるためショート法といいます。

フレアアップによりFSHに反応が悪い卵子を目覚めさせると考えるとわかりやすいかもしれません。

ロング法で反応が悪かったりする人に対して使用することが多い方法です。

短期間で行えることから好んで使用する施設も多い方法です。

 

ウルトラロング法

ロング法よりもさらに長期間、GnRHアゴニストを使用し続け完全にゴナドトロピンの分泌を抑えてから採卵する方法をウルトラロング法といいます。

これは子宮内膜症などをもつ患者さんによく施行される方法で内膜症による炎症を抑えてから採卵するイメージです。

内膜症の治療と採卵を同時に行う方法と捉えてもいいかもしれません。

調節卵巣刺激法とマイルド法

アゴニスト法やアンタゴニスト法は体外から大量のhMG/FSH製剤を投与するなど実際の自然の排卵の状態とはかけ離れているところがあります。つまり卵巣への負担が大きいのが特徴です。

年齢が高くなり残りの卵子が少なくなってきた場合は卵子一つ一つが大切となってきます。

卵巣予備能が少ない、つまり残りの卵子数が少ないのに調節卵巣刺激法で使用するような大量のhMG注射を投与すると卵子が短期間に急成長してしまい不良な成熟卵子ができてしまいます。

植物でも栄養を与えすぎてしまうとよくないのと同じです。

そのため残存卵子数が少ない場合に選択されるのがクロミフェン法です。

自分のFSHを最大限放出させることで、より自然に近い形で卵子が成熟するためマイルド法とも呼ばれます。

 

クロミフェンなどを使用したマイルド法で採卵する場合は、FSHの分泌を抑制しないアンタゴニスト法によってLHサージを起こらないようにします。

アゴニスト法ではFSHの分泌を完全に抑えてしまうため、クロミフェンが使用できないからです。

 

LHサージで卵子は完全に成熟します。

採卵または排卵前には必ずhCG注射をします。

どうしてでしょうか?

それは卵子が最後の減数分裂を完了して成熟するにはLHサージが必要だからです。

LHサージがなければ減数分裂が進まずに卵子が成熟しないのです。

そのため人工的にLHサージを起こすためにLH作用をもつhCG注射などを行います。

一般的にhCG注射後、36時間前後で採卵することが多いです。

ちなみにそれ以上すぎてしまうと排卵してしまいます。

 

LHサージとhCG注射とGnRHアゴニスト

実はOHSSの発症にはエストロゲンの量だけではなくLHの量も関与しているといわれています。

そのためLH作用のあるhCG製剤を大量に注射をすることもOHSSのリスクになってしまいます。

特にアゴニスト法では大量のhMG製剤を使用し、さらに採卵前にhCG製剤を投与するためにOHSSのリスクはとても高くなります。

これがアゴニスト法の最大のデメリットです。

それに対してアンタゴニスト法ではLHサージを起こすための選択肢としてhCG製剤以外にももう一つ別の選択肢があります。

それがアゴニスト法で使用したGnRHアゴニストです。

これを使用することで一気にLHを含むゴナドトロピンを放出させてLHサージを起こすことができます。

つまりフレアアップがLHサージの代わりになると捉えてください。

自分の分泌する生理的範囲内で最大限のLH量であるためOHSSの発症リスクを抑えることができます。

ちなみにGnRHアゴニストを使用してLHサージを抑制するアゴニスト法ではこの方法を使用することができません。

LHサージの代わりとしてGnRHアゴニストを使用する場合、アンタゴニスト法やクロミフェン法などのマイルド法で使用されることが多いです。

 

最後にこの章のまとめです。

  • タイミング療法、人工授精では排卵誘発で、体外受精や顕微受精では調節卵巣刺激法で卵子を獲得する。
  • クロミフェンは自分の持っているFSHを最大限分泌させる。
  • hMG/FSH製剤は体外から補充するFSHである。
  • 調節卵巣刺刺激法は①たくさんの卵胞の発育と②LHサージの抑制が重要である。
  • LHサージの抑制にはアゴニスト法とアンタゴニスト法がある。
  • アゴニスト法はGnRHアゴニストによりいったん全てのゴナドトロピン(FSHやLH)を放出(フレアアップ)させて、LHサージが起こらないようにする。
  • アゴニスト法にはショート法、ロング法、ウルトラロング法がある。
  • ショート法ではGnRHアゴニスト投与で起こるフレアアップも利用して卵胞を育てる。
  • アンタゴニスト法ではLHサージのみを抑制することができる。
  • LHサージで減数分裂が完了(卵子の成熟)し約36時間後に排卵する。
  • アンタゴニスト法ではLHサージの代わりにhCG注射だけでなくGnRHアゴニストの投与もできる。

 

いかがでしたでしょうか?

なんとなく今まで理解が難しかった排卵誘発や採卵のときの調節卵巣刺激法など、不妊治療の概要が理解できましたか?

今回は以上です。

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