今回は産科DICについて見ていきたいと思います。
ところでDICとはどんな病態か説明できますか?
僕も医学生のころは病態がよくわからなくて色々調べたことを覚えています。
まずDICを理解する前に、血液凝固について見ていきましょう。
血液凝固を理解するとDICも見えてきます。
血液はどうして固まるのでしょうか?
当たり前ですが、それは出血を止めるためです。
まずは具体的に出血を止める仕組みについて見ていくことにします。
凝固系
凝固系には2つの過程があります。
①一次止血
まず血管が傷つくとまず血小板が凝集してきます。
これによってとりあえず血管の傷を塞ぎます。
これを一次止血といいます。
②二次止血
さて血小板だけの止血はあくまで突貫工事なので、止血力は強くありません。
ここからが凝固因子による凝固の出番です。
血管が傷つくと血管内では凝固系の反応が始まり、
最終的にはトロンビンが活性化されます。
このトロンビンがフィブリノーゲンという材料からフィブリン血栓という強力な血栓を作ります。
これによって血小板血栓よりも強固な血栓が作られ、傷ついた血管に栓をするのです。
これを二次止血といいます。
内因系凝固と外因系凝固
二次止血である凝固の経路は2経路あります。
内因系と外因系と呼ばれます。
内因系は血管の内側の損傷を修復するための凝固です。
血管内の反応だけで凝固が起こるため内因系と呼ばれます。
それに対して外因系は血管の外部まで及ぶ血管損傷を修復するための、
つまり出血を止めるための凝固です。
血管外の因子から凝固反応が始まるため外因系と呼ばれ、外傷などの一般的な凝固には主に外因系が関与しています。
ところで内因系は合計8個の凝固因子が関与しますが、外因系は6個の凝固因子が関与して凝固します。
内因系の凝固能を測定する指標はAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)という検査項目です。それに対して外因系の凝固能を測定する指標はPT(トロンボプラスチン時間)です。
外傷による出血はより早く止血する必要があります。
そこで外因系の凝固では関与する凝固因子を少なくすることで、内因系の凝固よりも早く血液が凝固します。
つまり、外因系の凝固時間であるPTは、内因系の凝固時間であるAPTTよりも短くなっています。
凝固系を制御する仕組み
ところで出血を止めるために血栓を作ることは大切ですが、
血栓が必要以上に作られると、大切な血管をつまらせてしまいます。
そのため必要以上に血栓を作らないようにする仕組みが存在します。
その重要な因子がアンチトロンビンです。
アンチトロンビンは必要以上に作られたトロンビンと結合して不活化します。
これによって必要以上に血栓が作られるのを抑えています。
線溶系
さてこれまでは血管が傷ついてしまうと凝固系が働き血栓が作られることを説明してきました。
しかし、実際には血栓が作られるのと同時に線溶系といって血栓を分解しようとする反応も起こっています。
おそらく血栓について調べたことがあれば、凝固系と線溶系の話が同時に出てきたことはないでしょうか?
きっと一番意味不明なところではないかと思います。
止血するのに血栓を作ったのに、どうしてそれを壊すようなことをするのかという矛盾です。
実は、それにはちゃんとした理由があります。
外傷により血管が傷ついたら止血をするためにまず過剰に血栓が作られてしまいます。
そのため、過剰に作られた血栓によって血管を詰まらせてしまうリスクが生じます。
止血をするために血管の傷を血栓で蓋をしたのに、それによって血管を詰まらせてしまっては意味がありません。
そこで働くのが線溶系です。
つまり余分に作られた邪魔な血栓を分解することで血流を保ってくれるのです。
線溶系を制御する仕組み
ここからは線溶系では具体的にどんなことがおこっているのかを見ていきましょう。
血管が傷つくと凝固系が活性化され血栓を形成します。
すると同時に血管を詰まらせないように血栓を溶かす線溶系の一つであるt-PA(血管内皮細胞上に存在)も機能するようになります。
このt-PAは血液中に存在するプラスミノーゲンをプラスミンに変換します。
このプラスミンが血栓を溶かしてくれます。
しかし、必要以上にプラスミンが作られてはせっかく作った必要な血栓も分解してしまうため、血栓を分解しすぎない仕組みが存在します。
それがPI(プラスミンインヒビター)です。
PIは必要以上に作られたプラスミンと結合してその機能を抑えてくれます。
この仕組みがあるおかげで必要以上には血栓は分解されず、程よく血栓が残ってくれるのです。
血栓ができた後は徐々に血管の損傷が修復されてきます。
血管損傷が修復されると血栓は必要がなくなります。
すると必要のなくなった血栓をすべて分解する必要がでてきます。
血管が修復されるとプラスミンの機能を抑制していたPIが役目を終えてくるため、プラスミンがいよいよ本格的に機能するようになります。
そしてプラスミンがフィブリン血栓をすべて溶かしていき、元どおりの血管に戻ります。
以上が正常の血液が凝固しそして凝固した血液が分解されていく過程です。
☞ちょっと臨床
妊娠高血圧症の原因として血管の内皮障害が原因と言われています。
つまり血管が微小に傷ついているのです。
そのため出血はしていませんが、血小板が凝集しかつ凝固系が活性化しフィブリン血栓も作ることで血管の損傷を修復しようとするので、血小板やフィブリノーゲンが低下してきます。
また全身の血管の障害でもあるため、凝固系が活性化すると、それに応じてトロンビンが形成されるため、アンチトロンビンも減少していきます。
DIC
いよいよDICの話となります。
DICとは血が固まらずに出血が止まらなくなってしまうことです。
ところでDICが起こりやすい臓器はわかりますか?
それは肺、肝臓、腎臓です。
これらの臓器は肺炎、胆管炎、腎盂腎炎などの感染症や外傷でDICとなりやすいことで有名です。
これらの臓器の特徴は血管の塊であるということです。
しかも、その血管もかなり膨大な量です。
例えば肺の表面積はテニスコート半面分くらいあるといわれています。
それを覆うくらいの血管が張り巡らされていることを想像してみるととんでもない量の血管で肺ができていることが想像できるのでないでしょうか?
過凝固
そんな血管の塊でできている臓器で感染や外傷がおこると膨大な量の血管損傷がおこってしまいます。
そのため猛烈に凝固系が活性化されてアンチトロンビンが結合できる以上にトロンビンが作られてしまいます。
そのためアンチトロンビンの量は減少していき、どんどん作られるトロンビンによって大量の血栓が作られてしまいます。
しかし、
血管の塊からの出血なので、せっかく作られた血栓もどんどん流されてしまいます。
それでも、なんとか止血しようとどんどん血栓が作られますが、出血により流されてしまいます。
そして、徐々にトロンビンなどの凝固因子や血栓の材料であるフィブリノーゲンも消費されていってしまいます。
過線溶
また大量の血栓が作られてしまうため、血管を詰まらせないように大量のプラスミンが作られるようになります。
そのため、PIがプラスミンとどんどん結合して消費されていってしまい、しまいにはPIの量が低下していきます。
つまり、徐々にプラスミンの量も多くなっていくのです。
そのため、せっかく血栓が作られても、プラスミンによって分解されてしまい止血困難な状態となります。
これが外傷によるDICの正体です。
このように大量の血栓が作られ、大量のプラスミンが作られることでPI(プラスミンインヒビター)が不足し、線溶系が優位となってしまうようなDICを線溶亢進型のDICと言います。
産科DICとは産科危機的出血の成れの果て、つまり止まらない出血なのです。
*実際の凝固系や線溶系はより複雑です。登場人物が多いのも混乱のもとでしょう。例えば、凝固系の制御因子はアンチトロンビンだけではなく、プロテインCやトロンボモジュリンなども関与します。線溶系ではプラスミノーゲンからプラスミンに変換するt-PAを不活化するPAI(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター)なども関与してきます。
ところで敗血症では、PAIが高値になるため、t-PAが減少するためプラスミンが少なくなります。そのため、作られた微小な血栓が溶かされずに微小な血管を詰まらせたりすることで臓器障害を引き起こすなどの悪さをします。これを線溶抑制型DICといいます。
産科DIC
産科DICってどうして産科だけ特別なのでしょう?
妊婦では子宮は子供一人を成長させるために胎盤部分も含め血管が豊富となり、
満期には全血流の約20%が子宮に向かいます。
産褥期の子宮は血管が豊富な臓器となるのです。
胎盤をみてもわかると思いますが、
子宮は筋肉が発達している血管の塊なのです。
しかも、凝固系が亢進するために、産後出血などをきっかけにすぐに凝固系が活性化されてしまいます。
さらに、羊水は強力に外因系の凝固系を刺激してしまいます。
そして子宮内で大量のトロンビンが作られてしまい、大量の血栓を作り出します。
そのため血栓を溶解しようと過剰なプラスミンが形成され、大量のPAIが消費されてしまい、凝固因子消費性の線溶亢進型のDICに他の疾患と比較しても陥りやすくなっています。
産科DICが他のDICと独立してあるのはこのためです。
治療
上記のような機序で産科DIC(止まらない出血)は起こります。では治療はどうしたらいいかというと、2つです!
1)出血の原因を特定し止血を行うこと
2)消費された外因系や内因系の凝固因子、フィブリノーゲン、アンチトロンビン、線溶系を抑制するPAIを補うことです。これらすべてを含むものがFFPです。
出血の原因は、4Tと言われます。
Tone(弛緩出血)70%
Trauma(膣壁裂傷、頸管裂傷など)20%
Tissu (胎盤遺残・癒着胎盤など)10%
Thorombin(凝固因子の異常)1%
産科危機的出血まずはこれら4つの異常の有無を確認し、そしてそれらに対応し、出血が多ければ、いかに早くFFPを輸血するかが産科的DICによる大量出血の対応として重要となってきます。
これらの訓練こそが、産科救急の資格コースであるJCIMELSやPC3(PCキューブ)です。
以上が血液凝固とDICの説明です。
今回はDICの概略を説明しましたが、実際はこうも単純なものではありません。
この記事をきっかけに血液凝固やDICの理解が深まれば幸いです。
以上です。
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