異常分娩編1 概論 新しい切り口の産婦人科学 

  • 2020年5月26日
  • 2020年5月30日
  • 産科
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はじめに

前回(第1回(回旋)第2回(分娩第1-2期 胎児娩出まで)第3回(分娩第3期 胎盤娩出))までは正常分娩について説明しました。

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今回は異常分娩について説明していきます。

この講義では母体側の原因(分娩停止・微弱陣痛など)と胎児側の原因(胎児機能不全)にわけて見ていくこととします。

 

ところでお産は24時間マラソンみたいなものです。

つまり体力が相当必要となります。

子宮口全開大まではジョギング程度、

そして全開大したら、いきみが必要となり、全力疾走してもらわなくてはなりません。

そのため母親も相当疲れます。

ですので分娩の3要素の項で体重管理の重要性を説明しましたが、

妊娠初期から妊婦検診を通してしっかりと体重管理と体力をつけてもらう必要があります。

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微弱陣痛

まずは母体側の原因(分娩停止・微弱陣痛)について見ていきましょう。

 

微弱陣痛は大きく2つに分けられます。

原発性微弱陣痛

続発性微弱陣痛

です。

子宮筋腫などもともと子宮になんらかの原因があるものを原発性微弱陣痛といいます。

分娩の進行にともない自然と陣痛が遠のく続発性微弱陣痛といいます。

 

ではそれぞれ詳しく見ていきましょう。

原発性微弱陣痛

子宮自体になんらかの原因がある場合です。具体的には3つです。

①子宮筋が伸び切ってしまう(過進展)

②子宮筋がいびつ・異常

③その他

 

 

①子宮が伸び切ってしまう(過進展)

子宮はゴムみたいなものです。

巨大児や羊水過多など子宮が引き伸ばされてしまい、ゴムが伸びきって収縮力がなくなるように子宮も収縮力が無くなります。

②子宮筋の異常

子宮筋腫などがあると子宮の収縮を邪魔してしまうため秩序だった子宮収縮が起こりません。

そのため分娩が進行しにくかったり、胎児娩出後も子宮収縮のムラにより弛緩出血が起こる可能性が高くなります。

③その他

帝王切開後や頻回妊娠などのことです。

帝王切開は子宮に傷をつけるわけなので本来の力が出しきれない可能性があります。

子宮はゴムみたいなものとお話ししましたが、

ゴムは何度も引き伸ばしすると収縮力がなくなりますよね。

子宮も同じで働らきすぎると以前のような力が出しきれないことがあります。

 

ちょっと臨床1

原発性微弱陣痛の原因がある方は妊娠初期や妊娠経過からわかりますので、これらの方に出会ったら微弱陣痛になりやすいと考えて臨むことが大切です。

またとても大切なことはもう一つ。それは弛緩出血のリスクが高いです。

微弱陣痛全般的に言えますが、これらの方は比較的何もない人と比べると弛緩出血のリスクが高いです。その準備をすることがとても大切です。

 

 

続発性微弱陣痛

子宮以外の原因で胎児が下がらずに子宮が疲弊してしまったと思ってください。

 

続発性微弱陣痛の原因は大きく2つに考えると良いでしょう。

原因①

1つ目は、子宮筋がもともと強い陣痛を起こせないくらい弱いことです。

痩せ型の栄養不良のような方に多く見られます。

このような妊婦は胎児を支える子宮の力もないため切迫早産になりやすい傾向にあります。

切迫早産の人は、すぐに分娩になりやすいような印象がありますが、陣痛を起こせるくらいの子宮筋の体力がないため、予定日超過になることも多くあります。

原発性のような感じもしますが、子宮が痩せているや太っているなどは画像などでは診断できませんし、それは子宮の個性と捉えますので続発性に分類しました。

原因②

2つ目は子宮の力は普通でも、

分娩が進行しないため子宮口の刺激が不十分で陣痛が弱くなってしまう場合です。

 

さて微弱陣痛ではよくこの表が用いられます。

この表で大切なことは、子宮口が開けば開くほど、

①陣痛の増強、

②持続時間の短縮、

③陣痛周期が短くなってきます。

 

この理由は子宮口にあります。

分娩の開始は子宮口で卵膜が子宮から剥がれることが刺激となります。

正常分娩の項でも説明したように、

分娩が進行するにしたがって徐々に徐々に児頭は骨盤深くまで侵入してきます。

このことが、さらに子宮口を刺激することで陣痛はより強く、より短い間隔で訪れるようになります。

 

しかし、

なんらかの形で分娩の進行が止まってしまうと、

子宮口が刺激されないため、陣痛が弱まってしまいます。

さらに分娩の進行が止まるということは、

いくら子宮が収縮して児頭を押し出そうそうとしても抵抗があるため子宮が疲労してしまいます。

このように子宮口からの刺激が弱まることや子宮筋の疲労により陣痛が弱まってしまいます。

 

さてこの分娩が止まってしまう原因は、胎児が骨盤と比較し大きすぎる児頭骨盤不均衡、胎位異常、回旋異常、さらには軟産道強靭などがあげられます。これらについては次回の講義で扱います。

 

ちょっと臨床2

実際の臨床でも、陣痛が弱まったりした場合は、内診や超音波検査で何が起こっているのかなどを必ず確認してきます。

ちなみに児頭が比較的大きく、軟産道が狭いような人は、子宮口が膣壁と児頭に挟まれてしまい浮腫むことで、それが抵抗となることで微弱陣痛となり、なかなか分娩が進まなくなることがあります。

このような場合にはアトニンにより陣痛促進をすることも有効ですが、

用手的に剥離してあげることも有効です。

お産の神様はアトニンはよく麻薬だとおっしゃっていました。

陣痛促進してしまえば、自然と分娩は進行することが多いです。

しかし大切なことは、

内診をしっかりと行い、微弱陣痛となるような原因をしっかりと考え、なるべく薬に頼らずに分娩にもっていくことが大切だという教えです。

ちょっと臨床3

女性の骨盤はいつまで成長するでしょうか?

それは20歳くらいまでです。

一つの目安として20歳のころの体重はとても大切です。

20歳のころに体重が50kg未満であれば、骨盤があまり成長していない可能性があります。

つまり骨盤が小さい可能性があります。

今現在が60kgでも20歳のことの体重が45kgであれば、狭い骨盤に肉がついていることとなるので難産になる可能性が高いと考えてお産に臨みます。

 

治療

基本的に分娩第1期で胎児が元気であれば、

1)原因検索を行うこと(回旋異常や児頭骨盤不均衡はないかどうかや切迫早産の既往の有無の確認など)

2)母体の疲労は子宮が疲労していることと同じなので水分摂取を勧めてあげたりすること

が大切です。

また助産師さんが寄り添ってあげることは、過度な緊張や不安を取り除く効果があります。

病は気からとも言いますが、分娩はマラソンのようなものなので、しんどい時の応援や声かけはとても強い娩出力となります。

 

それでもどうしても分娩が進まなければ、オキシトシン(子宮収縮薬)を投与したりします。

それでも進まなければ、分娩停止、児頭骨盤不均衡と診断して帝王切開となります。

 

分娩第2期であれば、

1)胎児機能不全(元気がなくなってきた)

2)これ以上の分娩の進行が期待できない場合は、吸引分娩や鉗子分娩などによる急速墜娩(すぐに分娩されること)

が選択されます。

 

なんとなく微弱陣痛のイメージがつかめてきましたか?次回はより具体的に児頭骨盤不均衡、胎位異常、回旋異常などについて見ていきます。

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