歴史から理解する経口避妊薬(OC)と低容量ピル(LEP)

  • 2021年3月2日
  • 2021年3月2日
  • 婦人科
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今回からは理解が難しいホルモン製剤に焦点を当てていくことにします。

まずはピル(経口避妊薬・低容量ピル)について見ていくことにしましょう。

 

今回の内容

ピルが排卵を抑制する基本的な仕組みを理解して、次にピルの特徴を理解していきます。

実はピルの使い方や特徴を理解するにはその歴史を知ることが最も近道です。

ですのでピルの開発の歴史を通してしっかりと理解しましょう。

 

ピル作用機序

ピルの一番の目的は排卵の抑制です。

そのために体を妊娠している時のような状態にしてあげます。

ご存知のように妊娠中には排卵は起こりません。

これは胎盤から大量のプロゲステロンとエストロゲンが放出されるからです。

それによって2つの仕組みで排卵が抑制されます。

1つ目にプロゲステロン自体に強い排卵抑制効果(LH分泌抑制効果)があります。

2つ目にエストロゲンによるネガティブフィードバックによってゴナドトロピンの分泌(LHサージ)が起こらないため排卵が起こりません。

 

そこで人工的に胎盤から放出されるホルモンを補充してやることで妊娠中のような状態をつくり排卵が起こらないする薬がピルなのです。

もちろん妊娠中ほどエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンは必要ないので排卵を起こさせない必要最小限の量が薬となっています。

 

ちょっと臨床

LHと男性ホルモン

LH分泌の抑制は排卵を抑制するだけでなく、にきびの原因となる男性ホルモンの低下につながります。

では、なぜLH分泌の低下が男性ホルモンの低下につながるのでしょうか?

それはLHが卵子の周りを覆う莢膜細胞に作用しコレステロールから強い男性ホルモン作用をもつテストステロンへの変換を促進するからです。

このテストステロンは莢膜細胞のすぐそばにある顆粒膜細胞でFSHの作用によってエストロゲンに変換されます。

この莢膜細胞と顆粒膜細胞が協力してコレステロールからエストロゲンを生成するシステムをtwo-cell theoryといいます。

つまりLHが多いとたくさんのコレステロールがテストステロンへと変換されてしまい、にきびや毛が濃くなるといった症状がでてしまいます。

そんなテストステロン生成の原因となるLHの分泌をピルが抑制してくれるため、ニキビの治療薬としても使用されるのです。

 

さてここからはピル開発の歴史を通して、様々な種類のピルについて理解して行きましょう。

 

ピル開発の歴史

理解しやすくするために一部実際の歴史とは異なります。

かつてピルがなかった時代、世界では多くの女性が人工妊娠中絶に悩んでいました。

当時は人工妊娠中絶ですら命がけだったのです。

そこで女性の健康を守るために作られたのが妊娠を防ぐ薬、つまり排卵の抑制をする避妊薬です。

まず妊娠中は排卵しないというアイデアから作られたのが、プロゲステロン(黄体ホルモン)製剤です。

プロゲステロンは別名妊娠ホルモンとも言われ、それ自体がLH分泌を抑え排卵を抑制してくれます。

 

第一世代プロゲステロン(ノルエチステロン)

プロゲステロン製剤として最初に使用されたのが第一世代プロゲステロンであるノルエチステロンです。

さて妊娠するとまず問題になるのが妊娠悪阻(つわり)です。

プロゲステロン製剤は人工的に妊娠時のような状態にしてしまうため、避妊効果はありましたが、つわりのような嘔気や全身倦怠感といった副作用が強く出てしまいました。

そこで含有するプロゲステロン量を減らすために試行錯誤することで開発されたのがピルです。

第一世代のプロゲステロンを含有しているため第一世代ピルとも呼ばれます。

プロゲステロン(ノルエステロン)にエストロゲンを加えることで、排卵抑制効果を保ったまま、つわりの原因であるプロゲステロンの量を減らすことに成功しました。

これはプロゲステロン自体による排卵抑制効果に加え、エストロゲンによるネガティブフィードバックによりLHサージを抑制できたからです。

このようにして排卵抑制効果を損なわずに嘔気を伴うノルエチステロンの量を減らすことができるようになりました。

プロゲステロンの含有量を減らすことで副作用である嘔気を抑えることはできましたが、子宮内膜の安定化の作用も低下してしまっため不正出血が問題となってしまいました。

プロゲステロンは排卵抑制だけでなく、受精卵が着床した内膜が崩れないように安定化させることで不正出血を防ぎます。

第2世代プロゲステロン(レボノルゲストレル)

そこで不正出血を抑えるために作られたプロゲステロン製剤がレボノルゲストレルです。

これは1世代のノルエステロンよりも強いプロゲステロン活性(子宮内膜を安定化させ不正出血が少ない)があります。

しかし、にきびや毛が濃くなるなどといった強いアンドロゲン活性(男性ホルモン作用)を同時に併せ持つようになってしまいました。

かつてのピルはエストロゲン(女性ホルモン)含有量が多く男性ホルモン作用と拮抗したため大きな問題となることはありませんでした。

しかし、エストロゲン含有量が多いと血栓ができやすくなることが問題となり、エストロゲン含有量の低いピルを作ろうとしました。

するとレボノルゲストレルの強いアンドロゲン活性が表面化してしまったのです。

そこでアンドロゲン活性を少しでも弱めるために2つの方法が考えられました。

 

1つ目がアンドロゲン活性の強いレボノルゲストレルの量を少しでも減らそうとしました。

そうして作られたのが3相性のピルです。

3相性にすることで、排卵抑制効果を保ったまま1相性よりも1周期におけるレボノルゲストレルの量を減らすことができました。

 

2つ目がアンドロゲン活性の少ないピルの開発です。

ここで第3世代プロゲステロンと第4世代プロゲステロンが登場してきます。

 

第3世代プロゲステロン(デソゲストレル)

まず第2世代プロゲステロンであるレボノルゲストレルの側鎖を一部改変することで作られたのが第3世代のプロゲステロンであるデソゲストレルです。

側鎖を改変することでレボノルゲストレルのような強いプロゲステロン作用を保ちながらアンドロゲン活性を弱めることに成功しました。

アンドロゲン作用が弱いため、少量のエストロゲンでも副作用なく十分な避妊効果を発揮することができます。

またデソゲストレルは他のプロゲステロンと比較しLH分泌を抑制することで強い排卵抑制作用があるとされています。

そのため、デソゲストレル自体の低いアンドロゲン活性に加え、LH分泌抑制による莢膜細胞でのテストステロン生成の抑制することで他のピルと比較し、にきびなどにも効果があると言われています。

 

第3世代プロゲステロンでは第2世代プロゲステロンの側鎖を改変することでアンドロゲン活性を弱めましたが、第4世代プロゲステロンであるドロスピレノンは、これまでとは全く事なるアプローチで開発されました。

利尿ホルモンを元に開発されたのです。

 

第4世代プロゲステロン(ドロスピレノン )

利尿ホルモンをベースとしたことでアンドロゲン活性を0にすることに成功しました。

もちろん避妊目的としては十分な効果はあります。

ドロスピレノンはこれまでのピルとは異なり利尿剤ベースに作られているため、むくみが気になる人にも適しています。

またアンドロゲン活性もないため、にきびにも効果があると言われています。

 

ただしアンドロゲン活性も低くなりましたが、同時にプロゲステロン作用も低くなったため不正出血の頻度は増えてしまいました。

 

究極のプロゲステロン ディナゲスト

第4世代のドロスピレノンと同時期に作られたのがジェノゲスト(ディナゲスト®︎)です。

これはアンドロゲン活性のない黄体ホルモン活性をもつ究極のプロゲステロン製剤です。

しかも、かつてのような強い嘔気などの症状も抑えられています。

ピルのようにエストロゲン製剤の合剤として使用するというよりは単剤で使用します。

その強いプロゲステロン作用から子宮内膜症の治療薬として主に使用されていますが、近年では少量であれば月経困難症の治療としても使用されています。

しかし、このディナゲストではエストロゲンを含有していないため、中には更年期様の症状がでてしまうことがあります。

 

OCとLEPの違い

もともとはOC(経口避妊薬)しかなかったのですが、経験的にOCを内服すると月経困難症の症状も改善することがわかっていました。

そこで開発されたのがLEP(低容量ピル)製剤です。

OCとは経口避妊薬で避妊を目的としている場合に処方されます。

病気ではないため自費、つまり保険が利きません。

もちろん月経困難症にも効果があります。

中にはにきびの治療薬として使用されることもあります。

それに対して、LEPは月経困難症の治療目的に使用され、保険が適応されます。

LEPは月経困難症を改善するために特化したピルです。

もちろん避妊効果もあります。

OCとLEPは使用する人の目的によって異なるのです。

 

さてこれまでにピルの開発の歴史を振り返ってきましたが、ここで大切なことは第4世代のピルのほうが第1世代のピルよりも優れていることはないということです。

実際の診療では、それぞれの世代のプロゲステロンの特徴を考慮しながら、その人にあったピルを使用します。

現在入手できるピルは過去の経験から試行錯誤を繰り返し、副作用を抑えながら各世代のプロゲステロンの効果を十分に発揮できるようにプロゲステロンの含有量が調整されています。

 

現在処方されている主だったピルを紹介します。

第1世代ピル

OC: シンフェーズ®︎

LEP: ルナベル®︎(後発品 フリウェル®︎)、

第2世代ピル

OC: アンジュ®︎(後発品 トリキュラー®︎)

LEP: ジェミーナ®︎

第3世代ピル

マーベロン®︎(ファボワール®︎)

第4世代

LEP: ヤーズ®︎、ヤーズフレックス®︎

 

いかがでしたでしょうか?

ピルの歴史を紐解くことで色々な種類の特徴が見えてきたのではないでしょうか?

実はまだピルの一部分しか紹介できていません。

ピルは本当に奥深いホルモン製剤です。

今回の講座をきっかけとしてピルの理解をどんどん深めていってもらえたらと思います。

 

 

 

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