前回は基本的な婦人科腫瘍の考え方を紹介しました。
今回は妊孕性の温存、つまり妊娠機能を保ちながらの一般的な治療について紹介していきます。
妊娠機能を保つということは、
①子宮が存在すること、
②卵巣(卵子)が残っていること
です。
大原則として
①癌を取りきれる初期であること、
②妊孕性を温存しても予後が変わらないこと
が大切となります。
そのため、癌が手術で取りきれないようなII期、III期、IV期といった場合では、妊娠よりも癌の進展による予後の延長という点から子宮摘出も入れた根治術を行うことが多いです。
それでは具体的に見ていきましょう。
子宮頸癌
子宮頸癌では癌が局所的にある場合は、子宮の一部を摘出する術式が選択できることがあります。
具体的には上皮内癌やステージIB1までの状態です。
上皮内癌は顕微鏡でしか見えないくらいの癌なので円錐切除術、
IB1では肉眼的に見えるくらいの癌ですが局所的にあるだけなので広汎子宮頸部切除術(トラケレクトミー)が選択されます。
しかし、IB2、つあり腫瘍の大きさが4cmを超えてくるようだと、いくら妊孕性を温存したとしても、予後が見込めないため広汎子宮全摘術が勧められます。
術後の問題点
円錐切除術にしろ、トラケレクトミーにしろ子宮頸部を切り取ってしまいます。
子宮頸部の重要な役割は頸管粘液の分泌による雑菌の侵入を阻止したり物理的に頸管を閉じてくれたりと、妊娠の維持に重要な役割を担っています。
そのため、いざ妊娠したとしても最近感染により切迫早産となったり、前期破水の原因となったりすることがあるため、注意が必要です。
子宮体癌
子宮本体の癌であるため、子宮を残すには、極初期の癌である必要があります。
具体的には筋層浸潤のないIA期です。
また浸潤性の高い、つまり悪性度の高い癌では少しでも取り残しがあれば再発してしまうため、悪性度の比較的低い癌である必要があります。
具体的には類内膜癌G1という組織型です。
なぜならば類内膜腺癌は内向型発育といって子宮に浸潤せずに子宮内膜が分厚くなるような発育様式を取ることが多く、かつホルモン感受性が高いことがその理由です。
ホルモン感受性が高いとはプロゲステロン製剤に対すて反応しやすいということです。
実際の治療の流れ
不正出血などで受診することが多く、検査してみたら正常よりも子宮内膜が肥厚しているところから見つかることが多いです。
子宮内全面掻爬を行い、腫瘍の減量を行い組織型を確認します。
そして、MRIなど画像検査で浸潤度などを確認し、MPA療法(プロゲステロン療法)を行います。
治療後の問題点
奏効率は高い治療法ですが、再発率も高いのが問題点です。
そのため最終的には根治術、つまり子宮全摘術が必要となることが多いです。
卵巣癌
卵巣癌では基本的には1期の症例、つまり癌が卵巣内のみの止まってる場合に子宮と癌でない正常な卵巣を温存することが可能です。
しかし、I期でもIC期、つまり皮膜破綻(腫瘍が破れた)してしまった場合は癌が腹腔内に播種した可能性があると考え、化学療法をする必要があります。
さて、卵巣癌の場合の診断は、子宮体癌や子宮頸癌とはことなり生検ができない腫瘍です。
そのため手術以外には診断はつきません。
画像検査では、癌らしいとかはわかりますが診断はつきません。
では具体的な流れを説明します。
実際の治療の流れ
腹部膨満感で受診したり、がん検診で卵巣腫大を指摘され受診することが多いです。
画像検査や腫瘍マーカーの検査で癌が疑われる場合は、癌の診断目的に患側(悪い方の)付属期摘出術が選択されます。
一般的には手術中に迅速病理診断を行い、良性、境界悪性、悪性の診断をします。
境界悪性以上であれば大網切除術を行います。
さらに悪性であればリンパ節郭清も追加することがあります。
問題はもともと悪性を疑っていない場合です。
例えば奇形種などの場合はほとんどが良性であり、若年女性の場合、腫瘍核出術、つまり卵巣のうち腫瘍だけを摘出する処置が施されます。
しかし、術後の病理検査で未熟奇形種の診断(G1、G2であれば境界悪性腫瘍、G3であれば悪性腫瘍)となる場合があります。
その場合は、再手術が必要となります。
卵巣腫瘍のあった付属器を摘出し、大網切除も行います。
基本的に核出術では皮膜破綻があったと考えるため、術後に化学療法を行うこともあります。
妊孕性の温存できる組織型
組織型としては、漿液性腺癌、粘液性腺癌、類内膜癌などが適応となります。
明細胞癌は化学療法に抵抗性があり、治療に難渋することも多いため子宮も摘出する根治術が選択されることも多いです。
術後の問題点
卵巣癌の妊孕性温存手術での死亡率は根治術と比較して変化はないとされていますが、再発率は高いと言われています。
以上が一般的に言われている婦人科癌における妊孕性温存手術です。再発率の観点からも生殖補助医療などの介入がされることが多いです。またがん生殖における実際についてお話します。
実際の患者さんではガイドラインなどには記載されていない事が起こることが多いです。その人の社会的背景なども考慮し、個別の慎重な対応が求められる分野でもあります。